相手の気持ちを理解する能力にも影響

相手の気持ちを理解し共感することで、自分よりも相手を優先させようとする心情や行動を、向社会性と言います。一般的には、思いやりを持った行動とか、協調性といわれるようなことです。

思いやりを持った行動をするには、相手のためになるように自分の欲求を抑える自己抑制的な側面と、相手の要求を優先させて相手がメリットを得るように、自分が積極的に行動しようとする自己主張的な側面とが必要です。

この2つの面は、いずれも無意識的なものではなく、幼少期から鍛えられ発達させることで、自分で意識的に行うことができるようになる行動です。

そしてこのような行動が取れるかどうかは、個人差がとても大きく、成人になってからは、労働・経済市場で成功するかどうかにも関わってきてることがわかっています。つまり、思いやり行動や協調性等(向社会性)を身につけられた人の方が社会的に成功するということです。

この非認知能力の一つでもある思いやり行動や協調性等(向社会性)の発達には、親の経済力と教育歴が影響します。

経済力・教育歴が低い家庭に育った子どもは、そうでない家庭で育った子どもに比べ、利他的な振る舞いが少なく、より自己的な振る舞いをし、協力行動や他者への信頼感が少なくなることが示されています。

コロナの影響が親を通じて子に伝わる

この子どもの向社会性が、コロナの影響を受けていることが最近になって示されました。上述したように、コロナ以前から、親の経済力・教育歴の高低によって、子どもの向社会性に差があることが示されていましたが、コロナによって、この差がさらに大きくなったのです。特に、親の経済力・教育歴が低い家庭に感染者が出た場合に、この差が大きくなっていることもわかりました。

低い経済力・教育歴の親は、子どもへの語りかけが少なく、子どもの思考を引き出したり、育むことが少ないことがわかっています。親の子どもへの姿勢や対応が、子どもの利他性や思いやりを持った行動を発達させる重要な要因だということです。

コロナ禍において、大人(親)も様々なことに制限を受け、苦しみ、ストレスのコントロールがうまくできないことも多いです。しかし、ストレスによる余裕のなさなども含めたコロナに端を発する様々な親が受けた影響が、子どもの発達にまで影響してしまうのです。

親が受けた影響がなるべく子どもにまで影響しないように、私たち親は可能な範囲で何ができるのか考えながら日々子どもと接していくことが、コロナ禍の子育てには求められているのでしょう。

<参考文献>
• Sean CL Deoni1,2,3, Jennifer Beauchemin1, et al, Impact of the COVID-19 Pandemic on Early Child Cognitive Development: Initial Findings in a Longitudinal Observational Study of Child Health, medRxiv preprint doi: this version posted August 11, 2021.
• Aucejo, E. M., French, J., Araya, M. P. U., Zafar, B. (2020). The impact of COVID-19 on student experiences and expectations: Evidence from a survey. Journal of Public Economics 191, 104271 9.
• Santibanez, L., Guarino, C. (2021). The effects of absenteeism on cognitive and socialemotional outcomes: lessons for COVID-19. Educational Researcher 20, in print.
• Sama, B. K., Kaur, P., Thind, P. S., Verma, M. K., Kaur, M., Singh, D. D. (2021). Implications of COVID-19-induced nationwide lockdown on children’s behaviour in Punjab, India. Child: Care, Health and Development 47(1), 128-135.
• Camille Terriera , Daniel L. Chenb, Matthias Sutter. “COVID-19 within families amplifies the prosociality gap between adolescents of high and low socioeconomic status” Revision requested, Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS): Latest version (May 2021).

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。