現在、ツイッターでフェミニズムに関する発信を続けている笛美さんはかつて、大手広告代理店で働いていました。そして28歳のある日、結婚相談所に入会。長時間勤務で疲れ切った体に鞭打って男性に会う日々は、「墓場を探してさまよい歩くゾンビ」のような生活だったと語ります――。

※本稿は、笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)の一部を再編集したものです。

不気味な暗い夜
写真=iStock.com/sutlafk
※写真はイメージです

なぜ20代で婚活を始めなくてはいけないのか

結婚相談所の最初のカウンセリングで、アドバイザーさんにこう言われました。

「女性は30代になったら成婚率がグッと下がるから、20代のうちに始めるのは賢い選択ですよ」「年収は実際より低めに書いた方がいいですよ」

翌週、ネットで予約した写真スタジオに婚活用のプロフィール写真を撮りにいきました。当時私はショートカットだったのですが、ロングにしておけばよかったと後悔しました。

でもなぜだろう? 広告の写真を撮るときはあんなにワクワクするのに、婚活の写真撮影は楽しくないのです。撮影スタジオの男性カメラマンさんが言いました。

「20代で婚活なんて……本当にしなくちゃいけないんですかね?」

この人は何を言ってるんだろうと思いました。

「あなたは私のことを知らないからそう言えるんでしょ。私は泣く子も黙るバリキャリで、出会いがないんだよ。早くしないと卵子が老化するんだよ。なにを悠長なことを言ってるの?」と心の中で叫んでいました。できあがった写真の自分はすごく優しそうで家庭的で、ちっとも好きじゃない自分でした。

「私はあなたより下にいるよ」

20代という年齢に惹かれて、会いたいと言ってくれる人は多かった気がします。1日に3、4人に会うこともあり、誰が誰だかわからなくなり、目が回るようでした。50代の男性に頼みこまれてお見合いをしたこともあります。でも私の若さに惹かれているだけで人間性に惹かれているわけでないことくらい20代の小娘にもわかってしまうんです。

驚いたことは基礎的な会話ができない人があまりにも多いこと。こちらが質問すれば答えてくれるけど、向こうから私への投げかけがなかったり、盛り上がらない会話を必死で盛り上げて場をつないで……。

彼らに必要なのは女性ではなくて、コミュニケーションの講師なのではないか? というか結婚とか関係なく、日常的な女性との、というか人間との接触なのではないか?

なぜ結婚相談所に登録したのかと聞くと、私のように職場に出会いがなかったり、家族にプレッシャーをかけられて来ていた人も多くいました。なんだか気の毒になりつつも、結婚は彼らの課題を解決するツールとして正しいのかと、疑問を持ってしまいました。

なぜかわからないけど、結婚相談所にいる彼らからは、幸せの匂いがしないのです。私からもその匂いはしていなかったと思います。

男の人に口説いてもらうためには、彼らと対等のポジションにいてはだめで、むしろ自分が下だとアピールをしてあげなきゃいけない気がしました。

まるで交尾の合図をするメスみたいに「ほら! 私はあなたより下のポジションにいるよ。今がチャンスだよ。早く私の上に乗ってごらん!」

そこまで合図してあげることで、彼らはやっと安心して私にマウントすることができ、安心して私を口説くことができるような気がしました。