卒業後は、まず基礎力をつけようと証券会社の投資銀行本部に入りました。周りは皆数字が得意で、最初は劣等感を覚えたものです。数字の見方自体は知ってはいたのですが、それらを使って財務諸表をつくるのは想像以上に大変でした。どんな数字も単独で見ていてはダメで、ほかの数字と組み合わせて初めて何かが見えてくるもの。私は当初そうした、数字に意味を持たせるプロセスがとても苦手でした。
それでも、本を読んだり先輩に聞いたりするうちに少しずつ力がついていき、目の前の数字から最適解を導き出すには「複数の数字を見て状況を多面的に理解する」「正解は企業や市場の状況などによって異なる」の2つを念頭に置く必要があると知りました。これは今も数字と向き合う際のベースになっています。
常に客観的な正しさを持っているところが魅力
ここで学んだことは、次の転職先でも大きく役立ちました。会社がM&Aを検討したとき、財務スタッフとして期待通りのリターンが得られるかどうかを分析したのですが、その分岐点が微妙で……。苦労しながら複数の数字を読み解き、最終的には投資家も納得する数値であると結論づけることができました。経営上の意思決定をリードする役割を果たせて、ホッとしたと同時に自分の成長も実感できた出来事でした。
目の前の数字をどう正しい意思決定につなげるか、これについては今でもよく悩みます。本やセミナー、専門家との意見交換などで知識のアップデートを図ってはいますが、実績あるCFOになるにはまだまだ勉強が必要です。
私にとって数字は武器であり、ステークホルダーと話す際の共通言語でもあるので、もっと磨きをかけていきたい。自分や会社の思いを伝えるとき、数字は「嘘のない言葉」として機能してくれます。感情からの言葉と違って嘘が入る余地がなく、常に客観的な正しさがある。そこが一番の魅力ですね。
数字は、提案に客観性や説得力を持たせたいときに大きな威力を発揮します。加えて、経営幹部は決算書や企業財務への理解も必須。こうした情報はステークホルダーから必ず聞かれるので、皆さんも管理職になったタイミングなど、どこかの段階で腹をくくって(笑)、学ぶことをおすすめします。その際は座学だけでなく、ぜひ実務にも生かしてみてください。そうすれば学びへの意欲も持続すると思います。
構成=辻村洋子 撮影=干川 修
一橋大学商学部卒業。証券会社の投資銀行本部でアナリスト/アソシエイトとして活躍。2010年に人材サービス企業に転職、財務部において株式公開や財務戦略立案、M&Aなどを担当。17年にランサーズにCFOとして入社し、翌年より現職。