定量的にも定性的にも考えられる力を

ただ、結果として今は、お客さまとの会話の中で細かい数字を語ることはほとんどありません。私の役割は、お客さまと一緒に課題解決に向けたストーリーをつくり共有すること。数字はその展開を決めるための裏づけとして頭に入れておき、営業の場では目指すべき姿やそのための解決策を話すようにしています。

例えば、お客さまと一緒に競合他社に勝つためのストーリーを考えるとき。B to B to C営業と呼ばれるものですが、省エネ性の向上や低炭素化、レジリエンス向上、エネルギーサービスの導入など様々な付加価値メニューを駆使してエンドユーザーさまのご要望をかなえるストーリーを考えます。一方でそれらの事業性については各種数字を基に詳細に検討。何が実現可能で何が不可能か、様々なストーリーを想定してそれぞれ数字で判断しています。

「数字を知ると物事がシャープに見えて、判断や選択がしやすくなりますね」
「数字を知ると物事がシャープに見えて、判断や選択がしやすくなりますね」

私は営業になってから、物事を定量的に見る力の重要性を再認識したように思います。あまり数字が身近ではない業務でも「たくさん」のような抽象的な見方、つまり定性的な見方をしている物事を、数字を使って「何割」と定量的に表すと、ぐっとシャープに見えてくるのではないでしょうか。そうすれば自然と選択や判断の物差しが明確になり、語る内容もより具体的になる。その意味で、営業はもちろん、一見数字に関係ないような業務でも、数字で理解することはとても大切だと思います。

ただ、定量的な考え方ばかりしていると定性的な力は置き去りになりがちです。私の実感では、職位が上がるほど期待されるのは後者のほう。ですから、最初は定量的な考え方を、その後は意識的に定性的な力を磨くことをおすすめします。これはストーリーをつくる力であり、コミュニケーション力とも言えるもの。場数を踏んで、相手の心をつかむ工夫を続けることが大事ですね。

数字にまつわる愛用品

私も両方の力を大切にしています。計算や暗記だけでなく、数字を基にしたコミュニケーションで自分の価値を出していきたい。過去には、お客さまに求められるまま数字だけの提案をして叱られてしまったこともありました。慌てて再度チャンスをいただき大事に至りませんでしたが、数字だけでは心はつかめないと思い知らされた出来事でした。

営業という仕事の要は、数字の裏づけをもってストーリーをつくり上げること。これからもこの力を磨き続けていきたいと思います。

構成=辻村洋子 撮影=干川 修

小西 雅子(こにし・まさこ)
東京ガス 執行役員 広域営業部長

1988年、お茶の水女子大学家政学部卒業。東京ガスに入社し、都市生活研究所や「食」情報センターで食の研究等に携わる。その後、家庭向けガス販売のPR業務や人事総務業務を経て営業部門に異動。営業第二事業部長、広域営業部長を歴任し、2020年より現職。