会社に対するストレスは何もない
上場企業がそんな仕事のやり方をして社会的な信用を得られるのかという疑問がなくはないが、それはひとまず脇に置いておいて、ワークマンは「しない経営」を実践する企業として知名度を高めており、社員のストレスになることはしないと公言している。当然のごとく「残業もさせない」というのだが、しかし、納得のいくまで仕事をしようと思ったら、時間がかかって残業になってしまうことだってあるはずだが……。
「それはちょっと意地悪な質問ですね」
取材に立ち会っていた広報部の鈴木悠耶さんに叱られてしまった。鈴木さんが言う。
「会社から命じられてやる残業は、ストレスになりますよね。でも、自分が100点を目指して納得がいくまでやろうとした結果、残業になってしまった場合は、むしろ達成感しか残らないと思うんです。ですから、あくまでも『残業しろ』とは言わないのであって、残業自体を禁止しているわけではありません」
うむ。まだ完全に納得はできない感じだが、正直なところ、稲富さんは仕事にストレスを感じることはないのだろうか。
「ストレスにもいろいろなストレスがあると思います。私の場合、自分が思うように仕事ができなくて(能力の不足を)悔しく感じることはあって、それはストレスだと言っていいのかもしれません。でも、会社に対するストレスというのは、何もないんです」
数値目標なしに、どうやって上司は部下を率いるのか
ワークマンは、社員のストレスになることはしないと同時に、ムダなことも徹底的にしないと宣言している。社内行事もしない、飲み会もほとんどない。ショッピングセンターの店舗を任せている協力企業に、週次報告を提出させることすらしない。「スーパーバイザーが巡回して店長と話をすれば、そのお店の状況はわかりますからね」(吉田さん)。
そして諸々の「しない」の中で最大のものは、おそらく数値目標を設定しないことだろう。FC店に対しても売り上げノルマを課すことをしない。
厳密に言えば、一応は期ごと、部門ごとの数値目標は立てるが、それが未達になっても当該部署や担当者が譴責されることはないというのだ。
これは、社員のストレス低減という面だけでなく、ガバナンスという面から見ても重要な問題ではないだろうか。というのも、上司が部下に対してガバナンスを利かせようとする場合、突き詰めて言えば、「定量的(数値的)な目標が達成できなかったらお前の責任だぞ」という強迫をもってするのが一般的だからだ。学校の先生の権威が、生徒に成績をつけることによって支えられているのと同じ原理である。
組織の上に立つ人間が「数値目標」というツールを手放してしまったら、いったいどうやって部下を管理・監督するのだろうか。吉田さんが言う。
「まず、上司と部下が確固たる目標を共有していることが前提になりますよね。お互いがそれを認識できていれば、あとはその目標に向かってどんな方法でチャレンジするのかという、方法の問題になります。上司の仕事は、部下のチャレンジを支援し、結果の責任を負うことだと思います」