人は同調圧力に簡単に屈する

上記の9つを強く意識していないと、いかに人が、周囲の環境によって、簡単に(自分の意思や判断を抑えて)間違った回答を選ぶのか(同調圧力)を示す、古典的実験があります。

【図表1】上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください
【図表1】上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください

図表1を見てください。上段の線と同じ長さのものを下段から選んでください、という問題です。この実験の時に、いわゆる、サクラの実験参加者数人が、aと答えると、その中にいる一人の本物の実験参加者は、bと思っていてもaと答えてしまうということがわかっています。面白いことに、サクラの中に、一人だけ正解のbと答える人がいると、本物の参加者の中でも多数派のaと答える割合が一気に5%以下までさがることも示されています。

同調圧力という言葉を聞くと、何かしらのプレッシャーがかかるように思ってしまいますが、実際そのような圧が直接的にはなくても、「合わせないと孤立する(排除される)かもしれない」という思いを自ら作り出すことでも、簡単に集団の間違った判断に合わせてしまう傾向があることがこの実験から示されています。

同調圧力は脳に“痛み”を感じさせる

同調圧力がかかっている条件下では、脳の前頭前野や、前部帯状回という脳の場所が活発に活動していることが示されています。前頭前野は、道徳判断や他者理解など、自分の価値に基づいて社会的判断を行う時に使う脳の場所でもあり、同調圧力のかかっている時には、自分と周りの判断に食い違いが生じている中での判断を強いられることで活動が活発になっていると考えられます。面白いことに、前部帯状回は、社会的な痛みを感じる脳の場所であると言われており、同調圧力下では、集団からの排斥によって生じる社会的な“痛み”を脳が感じていると考えられています。

コロナ禍での自粛のあり方、ワクチン接種、さらには、オリンピック開催。今、社会も私たち個人も、多くの判断を求められています。自粛警察などは、Janisが指摘した集団浅慮の特徴の一つである、集団を守る監視人を自認する人材の現れ、そのものでしょう。

人の意思決定は、棒の長さを答えるという最も簡単な問題を解くだけの状況の時でも、簡単に揺らいでしまう、非常に不確かなものです。より、正しい判断をするためには、そのことを自覚し多様な情報を基に、一人できちんと考える時間が必要と言えます。

<参考文献>
・Janis,I.L.(1982)Groupthink(2nd edition),Boston,MA:HoughtonMifflin.
・Asch, S.E.(1951). Effects of group pressure on the modification and distortion of judgments. In H.Guetzkow(Ed.), Groups, leadership and men(pp. 177–190).
・Adolphs, R. (1999). Social cognition and the human brain. Trends in Cognitive Science, 3, 469-479.
・Moll, J., Eslinger, P. J., & de Oliveira-Souza, R. (2001). Frontopolar and anterior temporal cortex activation in a moral judgment task: preliminary functional MRI results in normal subjects. Arq Neuropsiquiatr, 59, 657-664.
・Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D.(2003). Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302, 290-292.

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。