「父親」という言葉には「家事育児」というタグがなかった
もっとも、大手を中心にすでに男性の育休を整備している企業もあります。なぜあえて法律で義務化しなくてはならなかったか。その理由を、これまで私が行ってきた活動を基に説明します。
私は2010年4月から、「厚労省イクメンプロジェクト」の委員、座長を務めてきました。最初に手をつけたのは、「家事や育児にコミットする父親」という新しい概念を作ること。今聞くとこの言葉に違和感を覚える人もいるかもしれませんが、当時は家事や育児に男性がコミットしない状況が当たり前だったのです。長らくこの日本社会において、父親という言葉には家事育児というタグがついていませんでした。そこで「イクメン」という新しいフレーズを広めて、この概念を世の中に浸透させようと思いました。
皆さんもご存じの通り、イクメンという言葉の認知度は上がり、2010年末には「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにも選ばれました。そこで一つの指標として男性の育休取得率を上げ、子どもが生まれた瞬間からコミットする父親を増やそうと考えたわけですが、これがなかなかうまくいかなかったのです。
「啓発」だけでは男性の育休は増えない
イクメンプロジェクトが発足した2010年の男性育休取得率は1.38%。その後も横ばいを続け、2017年にようやく5%を超えた程度。一方で、3歳未満の子どもを持つ20~40歳代の男性正社員のうち、「育児休業を利用したかったが、できなかった人」の割合は約35%もいることが分かりました(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査」)。
※編集部註:初出時、「育児休業を利用したかったが、できなかった人」の割合について、数字に誤りがありましたので訂正しました(7月12日11時00分)。
なぜ男性は育休を取れないのでしょうか。当初は金銭的な問題もあるかもしれないと考えましたが、育児休業給付金の額が上がっても取得率は上がりませんでした。そこでさらに理由を深掘りしたところ、「職場で休みを取れる雰囲気ではない」「上司がいい顔をしない」という声が聞こえてきました。
このような育休を取ろうとする男性社員に対する嫌がらせを、父性を意味するパタニティとハラスメントをかけて「パタハラ」と呼びます。パタハラをなくし、職場の空気を変えるために「イクボス」という言葉を用いて、部下の育児に理解を示すボスを増やそうという運動も行いました。しかし、それでも全く増えません。
そんな中、2017年に行われたイクメンプロジェクトの会合で、委員のおちまさとさんが発した、「全く結果が出ていない。何年やってるんですか」という一言が、私たちの心を大きく動かしました。
「目標に到達していないのに、なんでまだプロジェクトを続けられるんですか? 全然成果を出していないのに。僕がやっている民間の仕事は、与えられた期間に売り上げを伸ばしたり知名度を高めたりしなければならないし、実際に出しています。でも、プロジェクトを7年やっても育休の取得率は全く上がっていませんよね。この結果はサムいですよ」
厚労省の人がいる前でこうはっきり言われました。その場は一瞬凍りつきましたが、まさにおちさんの言う通り。7年がんばって啓発をし続けて、このザマかと思い知らされました。力が足りなかったなと思いました。啓発だけではダメだったんです。あとはもう義務化するしかない。こうして、男性育休義務化プロジェクトとして、私と『男性の育休』の共著者であるワーク・ライフバランス代表の小室淑恵さんとみらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、ファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんの4人で、約4年かけて法案通過を働きかけ、ようやく来年から実行されることになったわけです。