自らの手で資金集め

こうの史代さんと片渕須直監督は、それぞれが知る人ぞ知る存在であり、このコラボレーションには大きな期待が持てるものの、一般的な認知までは得られてはいませんでした。映画として配給するには、配給会社が決まって製作費も捻出されていくのが一般的ですから、もちろん「作品としてのヒット」が見込めなくてはなりません。ところが、『この世界の片隅に』をご覧になった方はわかるかとは思いますが、太平洋戦争中の広島市と呉市を舞台にした主婦の日常を淡々と描くという、“いわゆるアニメーションらしさ”からは程遠い内容でした。

製作準備に4年を費やし、シナリオと絵コンテを完成させるところまではたどり着いたものの、作品を次のステップへ進めていくためのスタッフの確保や、パイロットフィルム(営業用)の製作にあてるための資金を必要としている状況でした。そこで、Makuakeを活用し、自らの手で資金を集めることになったのです。

公開初日から映画館に行列

現実的な資金もなく、広報的な手段も持たない。けれど、ファンを巻き込んで話題化し、ファンの力を借りて製作しようという発想です。そのため、リターンの内容も「製作支援メンバーとしての登録」を前提に、「エンドロールに氏名をクレジット」や「片渕須直監督を囲んで行う製作支援メンバーミーティングへの参加権」などが設定され、ファンを巻き込む設計になっています。

プロジェクトが公開されると、こうのさんのファン、原作マンガのファン、片渕監督のファン、広島にお住まいの方……と、すでにそれぞれで存在していたコアなファンたちや関わりのある人、言わば「既存顧客」が率先して応援購入を始めてくれました。

彼らサポーターによって生まれた勢いは凄まじく、目標金額は2160万円と高い設定でありながら、最終的には3900万円以上が集まりました。そして、それだけの期待を集めているという実績が説得材料となり、映画の配給会社も決定。既存顧客がベースとなったサポーターたち、その勢いに巻き込まれて新たにサポーターとなった人たちにより、封切り日には立ち見が出るほどの盛況ぶりだったといいます。もちろん、映画そのものも大きな楽しみでしたが、「自分の名前がエンドロールにクレジットされているのをいち早く見たい」と思った人も多かったようです。

さらに、その封切り日の盛況が「公開初日から映画館に行列ができている」と、ニュースで報道されると、これまで得られなかった一般認知の層にまで情報が行き渡りました。こうして、サポーターの存在を超えた人々にまで魅力が伝わり、大ヒット作になったのです。