夫が家にいることで家事の手間がより増えている
そもそも日本では女性のエッセンシャルワーカーが多く、在宅勤務が可能な仕事に就いているのは男性のほう。ところが家事育児時間が伸びたのはなぜか女性のほうなのです。男性は家にいてもあまり分担できていない、あるいは家にいることで妻の家事の手間がより増えているのではないでしょうか。
育児の面では、休園や休校も大きな負担になりました。子どもが日中に家にいるということは、誰かが面倒を見なければなりません。近くに祖父母など頼れる人がいればいいのですが、そうでない場合は夫婦のどちらかが仕事を休むか、または在宅勤務をしながら面倒を見ることになります。
ある調査では、保育園や幼稚園の休園時、日中に誰が子どもの面倒を見たかという問いに対して「妻」という回答が約8割でした。この調査は働いている男女を対象に行われたものですが、それでも休園の影響を受けたのは圧倒的に女性のほうだったのです。
進む女性の非労働力化
こうした状況は、女性の働き方にもマイナスの影響を与え始めています。コロナ禍によって女性の失業者数は増え、生活苦を訴える切実な声も上がっていますが、それに加えて自ら退職する女性や就業しない女性が増えているのです。
働ける能力があるのに働く意思がなく職探しもしていない──。今、このような「女性の非労働力化」が進行しています。前述の研究会では、東京大学の山口慎太郎先生のチームが労働力調査のデータを分析し、配偶者がいる子育て中の女性の就業率が、コロナ禍の影響で低下していることがわかりました。
なかでも低下が顕著なのは、小学生の子どもを持つ母親です。これは、全国一斉休校によって日中に子どもの面倒を見なければならなくなり、仕事との両立が難しくなったためだと考えられます。
こんなのやってられない!
原因としてはもうひとつ、コロナ禍による心理的負担も考えられます。女性には、不特定多数と接触せざるを得ない仕事に就いている人も多くいます。特に医療や介護、保育などのいわゆるエッセンシャルワーカーでは、感染への不安や家事育児負担があってもなかなか休めない状況にあり、大きなストレスを抱えながら働いている人が少なくありません。
同じように女性の多い小売業においても、感染への不安が大きい上に休業要請などで仕事や給与が減り、ストレスを感じる人が増えています。これでは、働くことに対する意欲が下がっても不思議ではないと思います。
仕事には感染や減収の不安がつきまとい、家事育児負担はテレワークや休校の影響で増加。こうした状況が長引くに連れ、「こんなに大変な思いをするならいっそ辞めて家庭に専念したい」「夫のほうが収入が多いから夫に稼いでもらえばいい」と考える女性が増えてきているのではないでしょうか。コロナが改めて突きつけたのは、女性にとって「こんなのやってられない」と叫びたくなるほどの両立のしんどさです。