詐欺などのリスクも

山本氏も、モナリザやゴッホなど、死してなお輝きを放つもの、価値が続いてるものこそNFTとしての意味があり、「例えばビープル(Beeple)のデジタルアートや大坂なおみさんが出しているものが、時が経てば経つほどそれは『すごかった』と言えるものになっていくかどうか、ファンが残り続けるかどうかということが重要だ」と言う。

とはいえ、この分野には、課題もある。まず気を付けなければいけないのは詐欺だ。「例えば、本当は所有していないのに『これを売ります』と言ってお金だけだまし取るといったケースはありうる。『確かにこの人は所有している』という確証を取るなど、そういうところは、(マーケットプレイスの)運営者がやるしかない」と、山本氏は言う。また、思わぬ高値で買ってしまうリスクもあるかもしれない。

テクノロジーへの感度が足りない日本

NFTは世界に開かれたマーケットプレイスで売買されるので、グローバルに資金調達する手段でもある。

4月初め、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムがグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミットを開いたが、その会議の場でもNFTが話題になった。参加者の一人、アラブ首長国連邦のアブドラ・ビン・トゥク経済大臣は、アラブ首長国連邦は国を挙げて、NFTを含め、国のさまざまな資産のトークン化やパイロットプロジェクトを進めているという。

「トークン化をすることによって、投資、資本、国外の投資へのアクセスを進め、資産の細分化もできる」と大臣は言う。「NFTは、これまで資本の調達がなかなかできなかった人に、門戸を開くことができるのです」

日本はどうだろう。もっと新しいテクノロジーに対して、政府を挙げてアンテナを上げていく必要があるのではないだろうか。新型コロナの対応一つ取ってもそうだ。政府のデジタル化、教育のデジタル化、どれを取ってもデジタル化によって新たな可能性を広げていっている国と比べると、遅れている感がいなめない。

長年シリコンバレーでビジネスを展開してきた山本氏は、日本は、テクノロジーなど新しいことを試すということに対して、ハードルが高すぎると指摘する。

「今、日本は、デジタル庁という巨大な新しい戦艦を作ろうとしている。それはよいのですが、併せて、小規模でスピード感のある動きもしてほしい。NFTや新しい量子コンピューターに出資するなり、研究プロジェクトを立ち上げるなり、まずはやってみるということが大事だと思います。そして、そこで知見を得て次にどうするかを考えていってほしい」

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。