チームの中にいるかぼちゃと長芋と春菊と…
【長尾】良い畑、良いチームを作る上で、ほかに気にかけていることはありますか?
【萩原】土の設計って、作物によって全部変わるんですよ。季節によっても変わるから、すごい種類になるんです。
去年うちのメンバーの間で、お互いを作物に例えるという遊びが流行ったんです。聞いているとすごく面白かったんですけど、作物の特性が分かっていてその人の特性も分かっていないと、例えることはできないんですよ。それって、土を設計するということと似てるなと思って。
例えば、メイちゃんという子がいるんですけど、彼女はカボチャって言われたらしいです(笑)。カボチャというのは、根をバンバン張ってて、存在感がスゴイんです。彼女はいろいろなところを渡り歩いているんですけど、すぐに友だちを作っちゃう。「ここにメイあり!」みたいな存在感がある。で、乗ってる車が黄色のミニバン(笑)。「確かにカボチャだ!」と。彼女の根を広く張る特性を、みんなが分かってるんですよね。
それからカーリーという、育苗を担当している子は長芋に似てるねって言われてました(笑)。長芋は、最初はツルが細く出るんですよね。でも根のほうが先にぐんぐん伸びていってるんです。見た目は静かなんだけど、実は根の張りがすごいと。
僕はカーリーは春菊だって言ったんですけどね。例えばトマトは、お腹が減ると花を落として子孫を作らずに自分の人生を謳歌しだすんです。でも春菊はお腹が減って自分の危機を感じると、つぼみをつけて子孫を残そうとします。カーリーはピンチになると次の一手を考える。それが彼女のすごさである、と僕は説明したんですよね。
こうやって作物に例えるのがすごく面白かったので、今年もメンバーがそろったらまたやりたいと思います。
「春菊と人参、どっちが偉いか」を比較しても意味がない
【長尾】めちゃくちゃ面白い! この話、いろんなものにつながっているな、と思います。組織づくりで「フォーミング」をするときに僕が一番気にかけるのは、一人ひとりに目を向けるということなんです。全体をどうこうしようとしないで、一人ひとりをほぐしていく感じ。その人の、その人だけにしかない良さをちゃんと伝えてあげること。
そのために、ストレングスファインダーという道具がありまして。アメリカのギャラップという統計の会社が作ったテストで、それを受けると34種類の強みの中からその人が持っているベスト5が出てくるんです。
これをまず、みんなにやってもらったりします。そうすると34の強みの組み合わせなので、34×33×32×31×……となって全部で3300万通りのパターンがあるんですって。つまり、日本で自分と全く同じような強みのパターンを持っている人は3300万分の1で、自分以外にあと3人くらいしかいない。みんな違うんだというわけです。
「そもそもみんな違うので、違いを活かすところからチームを作っていこうよ」なんて話をするんですけど、「一人ひとりが野菜みたいに違う特性があって」という当てはめができるというのと、まさに同じだなと思いました。
【萩原】面白いですね。
【長尾】「春菊と人参どっちが偉いか」なんて、そんなの比べられないですもん(笑)。「この強みを持っている人と、この強みを持っている人のどっちが優れているか」も、比べられない。「そもそもみんな素晴らしい」というところから始めるのが組織づくりで大事なことだなと思うんです。
組織を作ろうというと、どうしても全体に目を向けがちですけど、一人ひとりに目をかけて、手をかけてあげる、一人の人として尊重するところから始めることが、土をふかふかにするために大事なことですよね。
構成=やつづかえり
日本福祉大学卒業後、東京学芸大学にて野外教育学を研究後、冒険教育研修会社、玩具メーカー、人事コンサルティング会社を経て独立。一般社団法人プロジェクト結コンソーシアム理事長、学校法人茂来学園大日向小学校の理事を兼任。著書に『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。』『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』(学研プラス)がある。
1971年、千葉県松戸市生まれ。大学卒業後、東洋エクステリア(現LIXIL)に営業職として勤務。サラリーマンを辞め、埼玉県小川町の霜里農場で11カ月、住み込み研修を受ける。1998年、長野県八千穂村(現・佐久穂町)で就農し、夫婦2人で75aから小さく農場をはじめる。現在は約7.5haで約50品目の作物を有機栽培。2019年、「オーガニック・エコフェスタ」で開催される栄養価コンテスト(一般社団法人日本有機農業普及協会主催)では3部門で最優秀賞を獲得し、総合グランプリを受賞。2020年はケール部門で二連覇。農業界のイノベーターとして、消費者・商業者から注目と共感を集めている。妻と二男一女。