今も重要な社会的事項を決定するのは「男性」

さまざまな分野の女性管理職の少なさなども合わせて考えると、結局現在の日本では、経済や政治という重要な社会的事項を決定する場面に女性がおらず、男性が決定しているという状況のあることがわかります。私は、日本の男女関係は協同的であって家父長制的ではないと論じてきました。しかし、それは家族に関わる領域の話であって、大きな社会的な領域においては、男性がさまざまなことについて決定することが行なわれています。

ここまで使用してきた「家父長制」という概念は、男性が権力を持ってさまざまなことについて決定し、それに女性が従うという体制を意味しました。この観点から見ると、今の日本は、政治や経済の重要事項を男性が決定し、女性がそれに従って生活する「家父長制」が成立しているといえるでしょう。つまり、女性が家族における協同的な「性別分業」に安住している間に、大きな社会構造としての「家父長制」が成立してしまったのです。このように男性が政治や経済における決定権を握っていることが、女性たちが現実に感じる困難を変えることを妨げているのです。

中村 敏子(なかむら・としこ)
政治学者、法学博士

1952年生まれ。北海学園大学名誉教授。75年、東京大学法学部卒業。東京都職員を経て、88年北海道大学法学研究科博士後期課程単位取得退学。主な著書に『福沢諭吉 文明と社会構想』『トマス・ホッブズの母権論――国家の権力 家族の権力』。翻訳書に『社会契約と性契約――近代国家はいかに成立したのか』(キャロル・ぺイトマン)。