確定拠出年金は、個人型・企業型ともに、残高総額の過半を預貯金や元本確保型の保険が占めています。セゾン投信の中野晴啓さんは、「この人たちは実質的には拠出金を運用に振り向けず、まったく増えない状態を好んで選んでいることになります。そして、将来退職時に愕然とすることになるのです」と指摘します――。
ノートパソコンを見て考え込むシニア女性
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節税メリットはおまけにすぎない

日本でも確定拠出年金制度(DC)に参加する人が企業型で約750万人、個人型(イデコ)で約200万人と、米国の定着度合いにはまだまだ遠く及びませんが、着々と普及へ向かい始めています。しかし参加者は増えていても、残高の半分以上が預貯金あるいは元本確保型保険という中身を見ると、本来のDCにおける制度主旨への理解が正しく浸透しているとは到底言い難いのが現状です。実際金融機関でも、「イデコは節税メリットがこんなにお得」という類いの誘導で説明されることが多く、制度目的をきちんと伝える努力が足りないとも感じています。

もちろんDCは年間拠出金額が全額所得控除の対象となることから、各人の拠出金に対する所得税率分が還付される経済的メリットは大きいわけですが、当該制度主旨はその枠内でしっかり運用を続けることにこそあるのであって、むしろ所得控除は制度に付与されたおまけというくらいに理解してほしいのです。

828万円が30年後に1500万円以上に

ちなみに2022年度から、「イデコ」は65歳まで拠出可能期間が伸び、それ以後も75歳までは継続して制度内運用が可能で、その間に積み上がった運用益が全額非課税となることのほうがはるかに重視すべき経済的恩恵であると考えるべきです。

たとえば企業年金がない会社員が毎月上限拠出額である2万3000円を30年間拠出して運用を続けるとした場合を考えてみましょう。世界経済の成長を相応に取り込む国際分散型のバランスファンドで長期的な成長軌道から得られるリターンを年率4%と仮定すると、拠出総額828万円が30年後に1500万円超にまで育ち、その拠出額との差額にあたる源泉所得税(現状20%)が課税免除される予定です。要するに長期投資による果実を丸ごと享受できる効果は実に大きく、制度内でしっかりと長期運用を継続することが大目的であることを理解できるはずです。