“自分がない人”ほど社会的比較をしがち

自分の内面や外見に注意を向けることを自己意識と言いますが、自己意識の中でも、自分の考えなどに基づいて自身への判断を下すことよりも「他者から見られる自分」に対して高い注意を払う人や、うつ傾向が高めの人ほど、他者との比較をしがちです。なぜなら、このような人たちは、自己概念が不安定(一般的に、自分がない、などと言われる)なため、比較をすることで初めて「自分は○○さんより××だ」として自己を確立し、それにより自尊感情を保つためだと考えられています。

つまり、自分がない(自己概念が不安定)人ほど、元来自尊感情も低く、人と比べて評価をすることでしか、自分の価値を見出せない(自尊感情を保てない)ということであり、「マウントを取る」と言われている現象の背景には、自尊感情の低い人による、下方比較を利用した自尊感情の保持があるのでしょう。うつ傾向が高めの人は、逆に上方比較による自尊感情の低下がありそうです。

ただし、日本人は全体的に、自己を他者から独立したものとして捉える西欧文化と比べ、人とのつながりや調和を大切と考える傾向があります。そのため、日本人は概して社会的比較志向が強くなっていることがわかっており、これが多くの人にとっての抜けられない悩みにつながっているのです。

人生の多くの時点で他者と比較を行っていることは、ほぼすべての人にとって経験的事実であり、程度差はあれ人種、性別、年齢を超えて普遍的に起こっていることだと思います。そして、それにより苦しんでいる人が多いことも事実ですが、比較の度合いが過ぎなければ、他者と比較することは、社会に適応していく上で、人にとって必要な機能でもあるのです。この時期は、昇進や入学などの身近な他者の喜ばしいニュースに心がざわつき焦りがちですが、日本では多くの人が同じ経験をしていることでしょう。必要以上に社会比較をすることなく、自分を認めることで、自尊感情を保つことが大切です。

<参考文献>
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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。