知人の昇進や転職の報告を心から喜べない。そんな人も多いのではないでしょうか。脳科学が専門の細田千尋さんは、「反対に、(自分より)優れている点がたくさんある、と思っていた相手が自分より不幸になるほど、人は喜びを感じやすい」と指摘。どちらの場合も、それを恥じたり自分を責めたりする必要はないと言います。その理由とは――。
ミーティング
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「○○部長を拝命しました」友人の報告に感じるモヤモヤ

新年度を迎えると、「○○部長を拝命しました」「新しく○○になりました」という喜ばしいニュースをたくさん目にします。喜びに浸る人もいる一方、そんな身近なニュースを聞いて、落ち込む人も多いでしょう。

イギリスの哲学者でノーベル文学賞受賞者ラッセルが書いた『幸福論』のなかに、「他人と比較してものを考える習慣は、致命的な(よくない)習慣である」という一節があります。

子どもの頃は「他所は他所、うちはうち」と言われ、大人になってからは、SNSなどを見て一喜一憂しながら「人と比べても苦しいだけ」と自分に言い聞かせている人が多いのではないでしょうか。

人はなぜ、他人と自分を比べてしまうのか

一体なぜ人は、他の人と自分を比較してしまうのでしょうか?

他人と自分を比較する理由の一つは、自己評価のためです。

私たちは、社会生活に対して「適応」していく必要があります。適応的に社会生活を行うためには、自分の能力やおかれた環境・立場をよく知っていることが不可欠です。そこで、私たちは常に、「自分は果たして正しいのか?」「自分の能力はどの程度なのか?」ということを確認するために、他者と比較をしてしまう、と研究上説明され、これを社会的比較と呼びます。

この社会的比較をするときに、境遇、能力、見た目など自分と“似ている”人を選びます。なぜなら、自分と似た立場にいる他者と自分の考えや行動が一致すると、自分の意見の正確性や妥当性を感じやすくなり、その他多くの自分と類似した人びととの意見や能力との一致によって得られる“自分の確かさ”を得ることができるためです。

また、別の側面もあります。例えば、70点の評価をえた時、自分と同じカテゴリーに属している(と思っている)人が何点の評価をえたか比較できると、カテゴリー内での自分の能力がよりわかりやすくなり、自身の立ち位置や能力を客観的に知ることができます。

そのため類似他者との比較は、自己評価を行う際に非常に有意義であるという結論を出している研究も多くあります。つまり、ここでいう「自分と似た他人」と比べる社会比較は決してネガティブな現象ではなく、状況に適応するために必要なことだとされているのです。