チーム力と風通しの良さの両立

「サンコーはチーム力で戦っているわけですけれど、チーム力はあまり強くなり過ぎるとセクショナリズムになる。セクショナリズムになったらあかんのやけど、セクションが完全になくなるのもあかん。この絶妙なバランスを保つことが常に課題なんです」

総務部の玉置泰子さん。社員と家族のように接する。
総務部の玉置泰子さん。社員と家族のように接する。(写真提供=サンコーインダストリー)

営業活動が常に2~3人のチームで行われ、チームごとの目標管理が行われていることは前編で触れた通りである。これが「個人を追い込まない」仕組みのひとつなわけだが、一方で奥山は、チームの結束が強固になり過ぎることも予防しているというのだ。なぜだろうか。

「ねじって特殊な商品で、90万種類もある上に、お客様の業種によって呼び方が違ったり、サイズが変わると名称が変わったりするんで、商売をするには商品知識がとても重要になるんです。しかもそれは、ググって出てくる知識じゃない。知ってる人に聞くのが一番てっとり早いわけですが、セクショナリズムが発生すると気軽に人に聞けなくなってしまいます。

だから、風通しのいい社風が必要なんですが、物理的に風が通らへんかったら風通しのいい会社はできませんから、うちにはパーテーションもないし、目の高さよりも上に物を置かないようにしている。サンコーは、少なくともフロア単位ではセクショナリズムが発生してないんです」

ハイスペック人材に頼らず競合と勝負できる仕組み

これが、会社に足を踏み入れたときに感じた、開放感や活気の背景かもしれない。しかし、パーテーションを置かないだけで十分な情報共有ができるとも思えない。

「そこでITの出番になるわけです。人間の能力の差って、知識が属人化されてるから生じたりするわけで、だったら、個人個人が持っている知識をきちんと収集してデータベース化して、きちんと配布できるようにフォーマット化してやれば、誰でも同じ知識を持てるようになる。サンコーはそれをITで実現しています。うちのITはすごいですよ」

つまり、個人が仕事を通して仕入れた知識をブラックボックスにせず、ITによって全社員の共有財産とすることで、いわば「能力の均質化」を図っているわけだ。そうすることで、ハイスペック人材を採用しなくても競合と渡り合える戦力を備えている。

「そもそも僕自身が中ぐらいの人間なんでね(笑)。僕はサンコーに入る前、DTPを使ってひとりで音楽関係のポスターやHPを制作したりしていたんですが、DTPってひとつ分からんことがあるとまったく先に進めない。2日も3日もヒマかけて、やっと分かってみたらこんなに簡単なことやったんかと。こんなもん、知ってる人に聞けたら秒で解決することやんかと。ところがサンコーに入ったら、コンピュータについてわからんことを周りの人にフッと聞くと、パッと答えが返ってくる。ああ、集団ってこのためにあるんやなと、しみじみ感じたんです」