経済的な自立が何よりも重要

国際結婚にも色んなケースがあるものの、夫の国に引っ越してきた妻は「現地に自分の両親がいない」「兄弟もいない」「友達もいない」「現地の言葉が分からない」という状態であることも珍しくありません。そんななかで自分の仕事を持っていたり収入があれば良いのですが、そうでない場合は、精神的にも経済的にも夫に依存することになってしまい、悲しいことにその状態が夫のモラハラを招くこともあります。

もちろん理想は、引っ越しをした先の外国で、夫やその家族が優しい気持ちで接してくれることです。でも悲しいかな、弱い立場にいる人を見て、そこにつけ込んでくる人がいるのも確かで、夫やその家族がそうならないとも言い切れないわけです。

もし「外国で生活してみたい」と思うのなら、その国で自分の仕事を持てるのかどうかを調べてから引っ越したほうが対等な関係が築けそうです。

「子どもを置いたまま日本に帰るなんて」というニッポンの感覚

愛ちゃんのケースでは、愛ちゃんが日本に帰国中に不倫をし、「子どもを台湾に置いたままだった」ことも非難の対象となりました。その根底には、母親はいつも子どもと一緒にいなければいけない、という日本特有の価値観が根底にあるのだと思われます。

過去には、パリで作家の辻仁成さんと結婚生活をおくっていた中山美穂さんが離婚の際に子どもをパリに残し、一人で日本に帰国して女優業を再開したことがバッシングの対象となりました。

サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)
サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

ただ知っておきたいのは、フランスはハーグ条約の加盟国であるため、夫婦が離婚をしたからといって、元夫の同意なしに妻が子どもを国外(日本)に連れて帰ることはできないということです。

7年前に中山美穂さんが子どもをパリに置いて一人で日本に帰国した際は、このハーグ条約に触れるマスコミはあまりありませんでした。でも日本人同士の結婚、国際結婚を問わず、海外で夫婦関係が破綻した場合、母親一人の意思で「子どもを連れて日本に帰る」ことは認められていません。

日本も2014年4月1日に加盟したハーグ条約は「子どもが現在住んでいる場所で今後も暮らしていくこと」が子どもにとって最善だという考えに基づいているので、配偶者・元配偶者の同意を得ずに親の都合で「子どもを日本に連れて帰る」ことは誘拐だと見なされてしまいます。夫・元夫に無断で子どもを日本に連れ帰った罪でアメリカでは複数の日本人女性が指名手配されているほどです。

夫と別れた後もその国で子育てをする覚悟が必要

そう考えると「夫の国に引越しをして現地で子どもを産む」選択をした場合、「たとえ将来的に夫と別れることになっても子どもと一緒にその国で生活をしていく」という覚悟が必要です。現実的なことをいうと「夫がいなくても、外国で自分と子どもを食べさせる」収入を持っていることが大事です。

いろいろとシビアなことを書いてしまいましたが、筆者は国際結婚をした両親のもとに生まれているので、国際結婚にはもちろん反対ではありません。ただ日本国内で日本人と結婚するのとはやはり違うので、事前の情報収集をして「女性として損をしない選択」をしたいものです。

サンドラ・ヘフェリン(Sandra Haefelin)
著述家・コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!