世代を超えて議論する必要のある問題

【末石さん】私は大学に入る前からジェンダー問題に興味があって、今もそうした授業を取ったり講演会に参加したりしています。私自身はあのCMに差別表現は感じませんでしたが、「ジェンダー平等を掲げるなんて時代遅れ」って言っちゃうのはよくないと思いました。日本はまだ全然進んでいないんだから、そこは批判しなきゃいけないと思う。広告は色々な層の人が見る媒体だし、作り手はもっと気をつけるべきですよね。ただ、「赤ちゃんを産むことが女性の幸せだと押しつけている」など、たたいている人たちの意見については、ちょっと過激で飛躍しすぎている気はしました。

【山田さん】私の周りにはジェンダー論に関心の高い子が多いですが、このCMはほとんど問題になっていません。ターゲットの私たちより、上の世代の方たちが過剰に反応している印象はあります。若者の無知なところをバカにしないであげてとか、若者向けの発言にはもっと気をつけるべきだとか、私たちのために言ってくださっている部分もあると思うんですが、それがちょっと過剰だったり、「君たちを理解しているよ」っていう姿勢を押し出し過ぎているように見える時があって。今回のように炎上してしまうと、ちょっと頑張り過ぎているのかなって感じます。

【原田】今回の皆とのディスカッションをまとめると、Z世代はジェンダー意識の高まりの中で育ってきているので、おそらく、そうした意識は上の世代よりそもそも持っている。でも一方で、今回の炎上や過剰と思える解釈の部分には違和感を覚える子も多い。

「若者=無知」という描き方や広告の意図がわかりにくいという点には疑問を持つ人がいるものの、「ジェンダー平等を掲げることが時代遅れ」というワードが独り歩きしているように感じる若者も多く、それは過剰反応な面もあるのではないか、という指摘が多くありました。

世界的に見て日本のジェンダー意識はこんなに遅れているのだから、もっと声高に言わないといけない、と思う上の世代は多いのだと思いますが、ジェンダー意識は育った時代背景によっても、感じ方に大きな差があるので、世代を超えて有意義で冷静な議論がしていける社会になることをZ世代の若者たちは求めているのかもしれないですね。

構成=辻村洋子

原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授

1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。