そして、もう1つが「対中国外交」です。まず「アメリカ第一主義」という反グローバリズムを唱えたトランプ氏は、当然「反中」に向かいます。そして中国と激しく衝突した結果、「米中貿易戦争」と呼ばれる事態を引き起こしました。一方、バイデン氏はグローバリズムの回帰をめざしており、なおかつ民主党には「親中」の土壌があります。となると当然トランプ氏の逆張りで親中路線に舵を切るのかと思いきや、現状はトランプ氏同様の「対中国強硬路線」です。
トランプ氏は中国製品に米国市場を荒らされることを嫌い、バイデン氏はウイグルや香港民主化問題に見られる中国の人権問題と覇権主義的傾向を嫌う……。こだわるポイントは少々違いますが、「中国脅威論」という点では一致しています。ですからバイデン氏は、トランプ氏がこじらせかけた日本や韓国など同盟国との関係を修復し、中国に強く当たるという方向性は継続しそうな流れです。
ただし、民主党には親中派の議員も多いうえ、温暖化対策などで中国の協力が必要になるだけに、どこかで政治的妥協が入り込む余地もあり(バイデン氏は政治を知りすぎているだけに、その可能性あり)、トランプ時代ほどの米中対立が続くかどうかは不透明です。
まず集中すべきはコロナ対策ではないか
こうして見ると、今後のアメリカが取り組むべき課題は、かなり多く、しかも1つ1つが重い。バイデン氏は、バランス感覚に富んだ民主党の中道穏健派です。ガチガチの左派ではなく、話せばわかる人であり、人の痛みがわかる人です。そういう意味では破壊神・トランプ氏とは対照的で、分断の進んだアメリカ社会に融和をもたらす大統領としてはうってつけでしょう。
ただし、アメリカ社会の分断は、思った以上に深刻です。わずか4年の任期中に、すべてを解決しようと「トランプの逆張り」に熱中したり、党内融和のために一貫性のない政治をすると、問題がさらにこじれて再び「トランプ待望論」が出てくる可能性もあります。これは本当に気をつけるべき点です。なぜなら以前にも書いたように、アメリカ分断の原因は、トランプ氏だけではなく、民主党にも大いにあるのですから。
現在のアメリカには、分断とコロナという「2つの禍」があり、当然優先順位が高いのは、コロナ禍の解決です。これを解決できれば、社会は落ち着き、民主党の評価は高まります。バイデン氏がやるべきことは、まずコロナ対策に集中し、その実績で支持を盤石にしたうえで、次の民主党政権に分断修復を託すことではないでしょうか。
「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)」として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)など著書多数。