詳細に定められた段階的出口戦略
この日発表された段階的出口戦略とはフェーズ1のA・Bから6段階になっており、驚くほど詳細に定められていた。ごく簡単に概要を示すと次のような感じだった。封鎖中は、最寄りでの食料品の買い出し(1人、入場制限付き、30分以内)と散歩(同じ屋根の下に住むもの2人まで)以外は禁止されていたことを前提に読んでいただきたい。
公共交通機関でのマスク着用を義務化/布地・手芸店の営業を許可/2人での屋外活動を許可/新型コロナ以外の理由での医療を再開など
フェーズ1B
一般小売店の営業を再開/自宅に招いていいのはいつも同じ人物で最大4人(原則テラス等の屋外)など
フェーズ2
段階的に学校を再開/美術館などの開業を許可/結婚式・葬式の許可(最大30人)/スポーツ練習の許可(最大20人、原則屋外)など
フェーズ3
国内旅行の解禁/飲食業の営業を許可/自宅に招いていいのはいつも同じ人物で最大10人(原則テラス等の屋外)など
フェーズ4
プールやジム、屋内娯楽施設の営業を許可/イベントの制限緩和(屋内200人、屋外400人)/自宅に招いていいのはいつも同じ人物で最大15人/買い物の時間、人数の制限緩和
フェーズ5
イベントの制限緩和(屋内400人、屋外800人)
※2020年末時点ではまだフェーズ5は実現していない
首相発表では、4月半ばの時点で日に1万件だったPCR検査体制を、封鎖解除初日までに2万5000件、近い将来に4万5000件にまで拡充するとし、2億枚のマスクとフィルターを市民全員に行き渡らせること、感染クラスターを追跡する体制を整えることなどを伝えて、市民の不安をなだめようと努めた。
次の段階に入る前には、必ず詳しい状況評価と次の解除の詳細、今後の見通しを発表しながら慎重を期すことも約束された。人間というものは、週・月単位の「見通し」がもてなければ、心理的に不安になるものだと考えるからと付け加えて。
首相からの母の日のプレゼント
石橋を叩いて渡るかのような慎重な解除だったが、解除方針にはウィルメス首相のきめ細かな配慮がそこここにみられた。
例えば、マスク着用を義務化した際は、家庭でマスクが手作りできるようにと、手芸用品店と布地店の営業を一足早く許可した。長らくお出かけができなかった市民の中でも裁縫自慢の人々はこの日、布地店や手芸店の前にうきうきと(しっかりソーシャルディスタンスをとりながら)長蛇の列を作った。
ほかにも、家庭に4人まで呼び集めてもよいとする制限緩和をほんの1日だけれど早めて、5月10日からにした。この日は母の日。ベルギー人は、家族や近しい人々との集まりをことのほか大切にする。ささやかな母の日のプレゼントは、ベルギー人の塞ぐ心を軽くした。
首相が見せた配慮の中でもう一つ印象深かったのは、最初の発表ではなかったにもかかわらず、フェーズ1Bの際に結婚や葬儀の儀式に立ち会える人数を10人まで許可したことだ。
この方針を伝えた際にその理由を記者から尋ねられると、ウィルメス首相はこう答えた。
「結婚や死別は人生であまりに大切なものであると思う。できるなら、一人で過ごしてはいけない瞬間だと信じるから」(5月13日)
EU主要機関のある欧州の小国ベルギー在住約30年。上智大学卒業後、米国とベルギーの大学院で経営学修士号取得。コンサルタント、コーディネーター業のかたわら、共同通信47NEWS、ハフポスト、婦人公論などのほか、環境、一般消費財、小売業などの業界紙にEU、ベルギー事情を執筆。海外在住ライターによる共同メディアSpeakUp Overseasも主宰する。注目テーマは、社会正義、人権、医療倫理、LGBT、環境危機、再エネ、脱プラなど。