「男社会」に風穴が入ったのはクライアントの“ある変化”から

こんな日本的社内環境では、現場配属者はほとんどが男となる。女性の営業職を出した日には、クライアントから「無茶頼めんから勘弁してよ」と言われたりもするのだ。新卒採用も長らく男性が圧倒的多数だった。「過去の公表数字にも女性採用はけっこう入っているよ」と言うなかれ。その多くは一般職なのだ。総合職では女性比率は1割程度だったろう。ただ、彼女らは男勝りの強者で、女性の職域開拓とは言えそうにないような存在だ。

つまり、現場はまさに「男社会」そのもの、という状態が長らく続いていたのだ。

ところが、その風潮に水を差すような出来事が起きつつあった。それが、クライアントとなるメーカー側に「女性社員」が増えてきたことだ。

メーカーは今でも圧倒的多数が男性採用に見えるが、それは誤解だ。メーカーの場合、採用数の7割以上がエンジニアのため、理工系大学から採用をする。この理工系に女性が少ないために、必然、採用者の大多数が男性となってしまう。ただし、2~3割採る事務系に関しては、その分、女性の採用比率を上げる。ということで、事務系に限っては従来半数近くが女性だったのだ。ただ、彼女らの多くは人事や経理、広報などの管理部門に配属され、営業や生産管理、購買などの「現場」にはあまり女性社員はいなかった。

ところが昨今、メーカーの「現場」にも女性が進出を始めた。これにはいくつかの理由がある。まず、商品開発や販売に「女性の目が必要」ということが一つ目の要因。二つ目には、銀行や商社ほど大学生人気が高くないメーカーは、新卒で上位大学生を採用しようとすると、男だけでは員数がそろえられない、といったことがある。

「無理難題を何とかする力」を女性にも

元々、管理部門には女性総合職が多かったために、女性扱いはそこそこ慣れており、現場の大手・官公庁担当部署などにも少数の女性がいたので、彼女らが育成役にもなれた。

そして、エンジニアに関しては中途採用を常時行っていたので、転職エージェントなどにも太いパイプがある。だから「女性活躍」が始まると、新卒だけでなく、中途でも一気に女性を採用するなどという芸当ができた。ある大手自動車メーカーなどは、係長クラスの30代中盤女性を一気に100名も採用したりしている。

こうして、クライアントの風景がガラリと変わる中、総合商社も「女性活躍」に本気を見せたのだろう。

員数だけそろえるなら、それこそ広報や人事などにエージェントを通じて中途採用すればいい。ただ、そんなことでは社風は変わらない。一子相伝スタイルで長年かけて現場で教えなければ「無理難題を何とかする力」は身につかない。だからこそ、新卒にクオータを設けたと見て取る。この「無理難題を何とかする力」の女性コースをしっかりつくろうという意図が、新卒クオータからありありと見えるのだ。