攻撃性を封じる「アドバイスください」作戦
いじめについても、「いじめられる原因は相手にある」と思い込んでいるので、「馬鹿だ」「ゴミだ」など、単なる人格攻撃をしているにもかかわらず、「自分は正しいことをしている。相手は攻撃されてしかるべきだ」と自分を正当化し、その結果、脳からはドーパミンが出て、不快感ではなく、快感を覚えるようになるのです。
ですから、自分を攻撃する相手も「自分が正しい」、もしくは「攻撃される原因は相手にある」と思っている可能性が高いため、「あなたの言っていることは単なる人格否定であり、間違っている」と言ったところで、聞く耳をもってくれないかもしれません。
そこで、アドバイスを求めるのです。
アドバイスを求められた相手は、自分のアドバイスが役に立ち、相手に感謝されることを期待します。
脳には、誰かから感謝されたり、褒められたりといった「社会的報酬」が得られると、ドーパミンが大量に分泌し、快感を覚えるという性質があります。そして、この社会的報酬による快感は、性欲、食欲などさまざまな快感の中でも非常に強いことがわかっています。
ですから、アドバイスをし、感謝をされ、「自分のアドバイスが役に立った。自分は正しいことをした」という快感を味わわせると、それ以上の攻撃を続ける目的がなくなるのです。
褒めて心理的に依存させる手も
攻撃してくる相手が自分に頼らざるを得ない状況をつくってしまうという方法もあります。
自分に頼らざるを得ない状況とは、相手が頼らざるを得ないような高度なスキルや、広い人脈をもつということももちろん有効ですが、「心理的に頼らせる」という方法もあります。
そもそも他人を攻撃する人というのは、大方の場合、自己評価が低いのです。ですから、とにかくその人を褒めて、その人のいいところも悪いところも認める姿勢を見せるのです。
自己評価が低い人は、自分を認めてくれる人を好み、依存する傾向があるので、とにかく褒めまくることで、相手に「自分をわかってくれる人」と印象づけるのです。これを継続することで、「自分をわかってくれる人はこの人しかいない」と感じさせ、心理的に依存させるという方法があります。
これはホストの人などが、自分の好みでもない女性を、褒めて、いわゆる太客(お金をたくさん使ってくれるお客)にしてしまう方法にも通じます。
とはいえ、嫌いな相手に対して実行するにはなかなかストレスフルですし、本当にそこまでして付き合わなければいけない人なのかということを一考してから取り組んだほうがよいとは思いますが、一つの方法として知っておくのは有効でしょう。
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。