死への距離感を6カ月に設定する

少し、話が逸れてしまいました。死を意識することは、「どう生きるか」を考えるきっかけになる。まずは死への距離感を決めたいけれど、ジョブズのようにストイックには過ごせない、というお話でしたね。

さて、「今日が人生最後の日」とはなかなか思えないぼくですが、もちろん毎日を漫然と過ごしていいと思っているわけではありません。それではやはり、死が見えてきたとき、確実に後悔してしまいますから。

そこで、ぼく自身は「死への距離感」を6カ月としています。

「あと半年後におくられる」と想定して、ここから6カ月間でなにをするか決めていくのです。半年間元気でいて、本気になればだいたいのことは叶えられるのではないかと考え、この長さに設定しています。

「余命半年」を生きる

「余命半年」ですから、ぼくは基本的にかなり時間にわがままだと思います。だって、「時間は命」なのですから。そう切実に感じているから、いつも「この時間の使い方でいいかな?」と答え合わせをしている気がします。

たとえば、気乗りしない飲み会や集まりに参加することはありませんし、「会いたい」と思ったひとにはなるべく会いにいくようにしています。また、講演会などで地方に行くときも、帰れるときはなるべく自宅に戻るようにしています。まだ幼い娘との1日は、「残りの人生」のなかでかけがえのないものだからです。

もちろん、6カ月ではどうしようもないこともあります。娘が生まれる前からぼくはずっと子どもがほしかったのですが、こればかりは授かりものですし、それに、どうがんばっても半年で赤ちゃんは生まれません。

そこで当時のぼくは「じゃあ諦めよう」ではなく、「甥っ子をめいっぱいかわいがろう」と考えました。「残り半年」だからこそ、甥っ子と会う時間を大切にして、できるかぎりの愛情を注ごうというわけです。

このように、人生の期限が決まっていると、やりたいことに対して一歩でも近づくため「なにができるか?」と前向きに考えて過ごすことができるのです。

ぼくはこの6カ月のリズムを意識すると調子がいいのですが、もちろん人によってペースはさまざま。6カ月ではなく1年、あるいは2年という方もいらっしゃるでしょう。

いずれにしても、死を意識して、命の期限を設けてみることです。そうすることで「やりたいこと」「やったほうがいいこと」「やりたくないこと」「やらなくていいこと」が、自然と浮き上がってくるはずです。

木村 光希(きむら・こうき)
納棺士、ディパーチャーズ・ジャパン代表取締役社長

1988年北海道生まれ。映画『おくりびと』の技術指導を行った納棺士の父に幼少期から納棺の作法を学ぶ。大学在学中に父が設立した納棺・湯灌専門会社にて納棺士としてのキャリアをスタート。大学卒業後、「納棺」の文化を広めるために韓国・中国・台湾・香港などで納棺技術の現地指導を行う。2013年、人生の終末期をサポートするご遺体処置のプロを養成したいという思いから、株式会社おくりびと®アカデミー、一般社団法人日本納棺士技能協会を設立。2015年、納棺士が葬儀をプロデュースする葬祭ブランド「おくりびと®のお葬式」を立ち上げ、全国で14店舗展開中。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演し、大きな反響を呼んだ。