選挙運動に「ゴミ拾い」を選んだワケ

【申】既存のやりかたをとことん見直して、不要な部分はそぎ落としていったと。ほかにも選挙運動の一環として、名前の入ったタスキをかけて街のゴミ拾いをされていましたが、あれは票につながるという確信があっての戦略ですか?

【川久保】人によっては恥ずかしく感じるかもしれませんが、私はつくば市に移住してきて以来ずっと続けてきたゴミ拾いを、タスキをかけてやっているだけという感覚で、普段どおり楽しくゴミを拾っていました。

当選後も、保育園送迎時のゴミ拾いは続けている
当選後も、保育園送迎時のゴミ拾いは続けている(写真提供=本人)

選挙運動の目的は当選すること。では、票を入れてもらうために本当に必要なことは何かと考えた時、「人目につくこと」「行為自体が街に役立つこと」の2つだと思ったんです。

有権者は政治家に街をよくしてほしいと期待しているはずで、私もまったく同じ。その意味で、通りに立って演説したり、選挙カーで名前を連呼したりすることには、まったく意義を感じませんでした。

その点、ゴミ拾いは、人目につき、かつ行為自体が街の美化に役立ちますので、まさに選挙運動にうってつけだと思いました。

従来型の選挙運動でなくても、票は入れてもらえる

【申】ゴミ拾いは「街をよくする」に直結する行動ですね。本当に、政治家にはぜひその意識を持ってほしいものです。

ところで、今回のやりかたはほかの若い女性が同じように挑戦しても有効だと思いますか? 川久保さんは東大卒で弁護士ですから、「私とはスペックが違う」と考える人もいそうです。

チラシを手に対談する川久保さん
チラシを手に対談する川久保さん

【川久保】まだほかの事例がないので一概には言えませんが、「型にはまったやりかたでなくても票を入れてもらえるんだな」という実感はあります。それと同様に、既存の政治家の型にはまったスペックでなくても票を集められる可能性はあると思います。それぞれの方の個性やバックグラウンドによって、効果的な選挙運動のやり方も変わってくるのではないでしょうか。みなさん一人ひとりに、一度「当たり前」を全部とっぱらってゼロベースで考えていただけたらと思います。

【申】もうひとつ、一般人の政治参画には選挙資金もネックだと言われています。特に地方選挙は国のサポートが少ないこともあり、最低でも100万円は自分で用意しないといけないと聞きました。川久保さんの場合はどうだったのでしょうか。

【川久保】自分の貯金の範囲内と考えて100万円以内に収めようとしたんですが、やはり少し超えてしまいました。無名で活動期間も短かったこと、それとWebサイトやチラシ、ロゴづくりなどにお金をかけたことが大きかったと思います。従来の選挙や政治家に対するイメージを変えたかったので、PRに関わるものはすべてデザイン性を大事にしたんですよ。実際、後になってから、このデザインの部分がかなり当選に寄与したことがわかりました。

【申】川久保さんのサイトやチラシはおしゃれで、ほかの政治家のものとまったく違っていたのでびっくりしました。これなら若者や女性にもアピールできますよね。加えて、議員でなければできない「街を変える」仕事をするための、そして誰もが政治参画しやすい環境をつくるための立候補。今求められる新しい政治家が出てきたなと、本当にうれしく思っています。

【川久保】私の中の市議会議員像は、「市民の『変えたい』を全力でサポートする人」です。以前の私は変えたいと思っても変えられなかったので、これからは同じ思いをしている人に寄り添って、ともに問題を解決していきたい。任期の4年間を通して、そういう議員であり続けたいと思います。

構成=辻村洋子

申 琪榮(しん・きよん)
お茶の水女子大学 ジェンダー研究所 教授

米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。女性議員を養成する「パリテ・アカデミー」共同代表。

川久保 皆実(かわくぼ・みなみ)
つくば市議・弁護士

1986年生まれ、茨城県つくば市出身。2010年、東京大学大学院法学政治学研究科修了。ITベンチャーでの企画営業職を経て弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。2018年、弁護士業の傍ら株式会社リージットを起業。2020年10月の茨城県つくば市議会議員選挙で、無所属新人として4218票を獲得し3位で当選。1歳と3歳の2児の母。著書に『これならわかる テレワークの導入実務と労務管理』。