あの有名なスピーチとの共通点
アメリカのリーダーたちはスピーチのために本当に心を砕く。スピーチを行う場所、タイミング、過去に偉業を成し遂げたリーダーの言葉を引用しながら、それらがどのように人々の心に響くかを計算しているところなど、日本人の私たちには到底考えつかないことかもしれない。
ハリス氏の演説の前述の部分もよかったが、この演説の中で私の一番印象に残ったのは以下のところだ。
この国の子供たち、性別に関係なく、私たちの国はあなた方にはっきりとしたメッセージを送りました。大志とともに夢を抱き、信念を持ってリーダーとなるのです。
これを聞いた時、「このスピーチの感じ、とても似ている」と思い浮かんだことがある。それはアメリカ黒人公民権運動の父と呼ばれるマーティン・ルーサー・キング・ジュニアのあの有名なI have a dream(私には夢がある)の演説だ。どことなく、あの演説に似ているような気がしたのである。
キング牧師の記念日に立候補を表明
1963年に行われたこのキング牧師の演説は、世界中で知られている有名なものだ。私は以前、アメリカの大学で研究していた時、クリントン元大統領のスピーチライターでもあった教授の授業をとったことがある。大統領の元スピーチライターが教えてくれるとあってとても人気のクラスだったが、もちろんこの演説が映像とともに教材として登場した。
「私には夢がある。それはいつの日かこの国が立ち上がり、真の意味でのこの国の信条、つまりすべての人は平等に作られたというこの国の信条にみあう国になることを」とキング牧師はワシントンD.C.の巨大なリンカーン像の前で群衆に語り掛ける。「私には夢がある。いつかジョージアの赤い丘の上で、昔の奴隷と奴隷所有者の息子たちが兄弟のように一緒にテーブルにつくことができるようになることを……」
この演説の翌年の1964年、アメリカ合衆国議会は公民権法を制定し、キング牧師は史上最年少の35歳でノーベル平和賞を受賞した。しかし、1968年4月4日、抗議集会のため滞在中だったテネシー州で暗殺されてしまった。
ハリス氏の両親は、カリフォルニア大学バークレー校で公民権運動に関する卒業研究を通じて知り合ったそうだ。両親につれられ、ハリス氏も物心ついた頃から抗議デモに参加してきたという。また、ハリス氏は、キング牧師を称える記念日、マーティン・ルーサー・キング・デーである2019年1月21日、大統領選への立候補を表明した。そんなことを考えると、この有名すぎるスピーチがハリス氏の頭の隅にあったとしても不思議ではない。