焼き魚定食には角砂糖25個分の糖質

ここでビジネスパーソンの昼食を考えてみよう。含まれる糖質を角砂糖で換算してみると〔『食品別糖質量ハンドブック』(江部康二、洋泉社)を元に計算〕。

ツナサンドイッチ+ヨーグルト飲料(角砂糖13個)、オムライス(角砂糖29個)
ハンバーガー+コーラ(角砂糖18個)、カップラーメン+おにぎり(角砂糖33個)
パスタ+パン・スープセット(角砂糖37個)、牛丼(角砂糖36個)
カレーライス(角砂糖36個)、かつ丼(角砂糖38個)
さけ弁当(角砂糖40個)、ラーメンと焼きめしのセット(角砂糖55個)

これを見ると、驚く量の糖質を摂っているのがわかるだろう。ヘルシーなイメージの焼魚定食でも、白米がつくので角砂糖25個分の糖質を摂ってしまうことになるのだ。

前野博之『成功する人ほど良く寝ている』(講談社+α新書)
前野博之『成功する人ほどよく寝ている』(講談社+α新書)

これだけ大量の糖質が一気に吸収されると、血糖値は驚くべき角度で急上昇する。すると、血糖値を下げようとして膵臓がインスリンを過剰に分泌し、その結果、今度は血糖値が急降下してしまうのである。

血糖は細胞のエネルギー源であり、血糖値が下がって低血糖状態になると、大量のエネルギーを必要とする脳は(たったひとつの脳で、体全体で消費されるエネルギーの20〜30%を必要とする)無駄なエネルギー消費を抑えるために活動をセーブするので、そのときに眠気に襲われてしまう。そう、あの午後からの暴力的な睡魔は、血糖値の乱高下によって引き起こされていたのだ。

ストレスを抱えているとさらなる悲劇が起きる

しかも、その状態で同時にストレスを抱えていると、さらなる悲劇に襲われることになる。

通常、低血糖の状態が続くと、副腎から分泌されるコルチゾールの働きによって血糖値を上げようとする。しかし、ストレスによって副腎が疲労していると、コルチゾールがそのときに分泌されないので血糖値は下がったままで上昇しない。

そのため、午後からの暴力的な睡魔からようやく逃れても、次は低血糖状態による疲労感や思考能力の低下に襲われてしまう。夕方4〜5時にかけてのやる気のなさは、昼食時の血糖値の乱高下と副腎疲労が重なって起きているのだ。

また、下がった血糖値を上げるホルモンはコルチゾールだけではない。アドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンも血糖値を上げるために分泌される。アドレナリンは別名「攻撃ホルモン」とも言われ、怒り、敵意、暴力といった攻撃的な感情を刺激する。一方、ノルアドレナリンは「不安ホルモン」とも言われており、恐怖感、自殺観念、強迫観念、不安感といった否定的な感情を刺激する。

低血糖症の怖さ

毎日の血糖値の乱高下により、これらのホルモンが大量に分泌され続けると、自律神経が乱れ、心身の不調を生じてしまうのだ。これを「低血糖症」という。

不調の内容としては、不眠、夕方の眠気、イライラ、疲労感が抜けない、不安感、手のしびれや動悸、頭痛、筋肉のこわばり、集中力の欠如、うつ症状、パニック症状など多岐にわたる。低血糖症は、血糖値が低いことが問題なのではなく、血糖値の変動を調節するホルモン分泌の乱れが原因で起こるさまざまな症状の総称なのだ。

低血糖症の状態になり、アドレナリン、ノルアドレナリンが日中に大量に分泌されると、低血糖症の症状のひとつである不安感やイライラが強まって神経が高ぶるので、寝つきが悪くなってしまう。また、これらのホルモンが夜間に分泌されると、夜間低血糖で寝汗をかいたり、歯ぎしりや悪夢を見たり、腹痛を起こしてしまう。

血糖値の乱高下は午後の睡魔を引き起こすだけではなく、それを毎日のように続けると低血糖症を発症し、寝つきや睡眠の質にまで影響を与えるようになってしまうことを知っておいてほしい。

これまで見てきたような、血糖値の乱高下による午後の睡魔やさまざまな心身の不調を改善するには、とにかく血糖値を安定させることが重要である。

前野 博之(まえの・ひろゆき)
栄養睡眠カウンセラー協会 代表理事

1967年生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、大手電機メーカーに入社し、家電製品の開発を担当。睡眠時間が4~5時間というハードな毎日を続ける中で体調を崩し、健康の大切さを痛感。2005年に栄養学の資格を取得。プロスポーツ選手やモデルへのアドバイス、スポーツジムでのダイエットプログラム作成、病院での栄養指導を行うかたわら、栄養に関する講演を2500回以上行っている。この間、健康の維持には栄養の改善だけでなく睡眠も重要であるとのことから最新の睡眠学を学び、そこに栄養学を加えて独自の「睡眠改善メソッド」を構築、現在は栄養睡眠カウンセラーの育成を中心に活動中。