山本文緒さんの小説『自転しながら公転する』の主人公・都(みやこ)は、母の介護のために東京での仕事を辞めて茨城の実家に戻り、契約社員としてアウトレットで働く女性。30代、独身。友人たちは出産を経験したり、頼りがいのある彼氏ができたり、着実に何かを手に入れているのに、自分が付き合い始めた男性は回転寿司屋で働くアルバイト。安定した未来が見えない……。著者の山本さんは、「いまの女の子が、結婚して、子どもを産み働くことがいかに無理ゲーであるかを書いた」と語ります。直木賞受賞作『プラナリア』など数々の著作で、光も闇も抱えながら懸命に生きる人の姿を浮かび上がらせてきた山本さんに、この7年ぶりの長編小説に込めた思いを聞きました。

「できる/できない」を明確に、自分の人生を最優先

——あれもこれもと、いつの間にか誰かに課されたミッションが頭の中でぐるぐる回る……。そんな、つい頑張りすぎてしまう人の疲れた心に寄り添ってくれる小説だと思いました。『自転しながら公転する』というタイトルが言い得て妙だと思ったのですが、最初から決めていたのですか?

山本文緒さん 撮影=新潮社写真部
山本文緒さん 撮影=新潮社写真部

【山本文緒さん(以下、山本)】執筆より先にタイトルはありました。知り合いのライターさんがツイッターで「私たちは自転しながら公転する地球の上に乗り、毎日生活している」という内容のツイートをされて、いいなと思ってメールで使用の承諾を得ました。先にタイトルがあり、物語はそれに寄せられていった感じでした。

——「プレジデントウーマン オンライン」の読者世代も、主人公の都と同じように、親の介護と仕事の両立で悩んでいる人や、これからどう向き合っていこうかと考えている人が多いです。

【山本】私は親の介護のために子どもが仕事を辞めることに大変憤りを感じて、大反対なんです。なので、都の父親が「仕事を辞めてくれ」と言うシーンを、「許せない」と思いながら書きました。

親は先に死んでしまうのだから、子どもが自分の生業や経済力を手放して、親に尽くすのは違うのではないかなと感じるので、そこは少し強いメッセージを込めました。自分が同じ目に遭ったわけではないのですが、周りの人の状況を見ていると、外注できるものは外注するなど、何か両立できる手段はあるはずです。

——山本さんは現在、長野県にお住まいで、神奈川県のご実家と行き来している生活だそうですね。ご自身は老いていく親との付き合い方について、どのような考えをお持ちですか?

【山本】私は決して“いい子”ではないですが、いい子ほど、「優しさ」と「自分を投げ出す」ことが一緒になってしまう。「どこまでやるか」を明確にしておかないと絶対に引きずられるので、「ここまではやる」けれど、「ここから先はできません」という線引きを明確にしてあります。たとえば「一緒には住まない」とか、「月に何回以上は実家に行かない」とか、非常に細かく心の中で決めているんです。

——自分の暮らしを大事にしていくことが最優先ですね。