在宅勤務の経費は自腹でいいのか
境界があいまいなケースは、職と住の融合が進むにつれて今後も増えていくでしょう。すると、そこにかかるコストを誰が負担すべきか、という問題が出てきます。
オフィスでは、自席周りの掃除もフロア全体の清掃も有償労働で、そのコストは会社が負担しています。業者に外部委託する場合も会社負担ですし、自分で清掃する場合も業務の範囲内です。これが在宅ワークになった瞬間に、無償労働になってしまう。自宅の仕事部屋の掃除は仕事環境を整えるための業務だと考えられますから、無償労働、つまり個人負担のままでいいのか、という問題が当然出てくるのではないでしょうか。同じことは、仕事中の光熱費や通信費にも言える問題です。
こういったコストについては、在宅勤務はオフィスを自宅へ移転させたものだから会社が負担すべき、と考えるのが基本だと思います。会社側は、在宅勤務の社員に関しては清掃費も光熱費も通信費も個人に負担させているわけですから、そのぶんを業務上の経費として払うか、あるいは給料を上げるべきなのかもしれません。
コストに関しては、すでに何らかの対応策をとり始めている企業もありますから、「うちの会社はまったく気にしてくれない」という人は声を上げたほうがいいと思います。
ただ、掃除のような無償労働は時給に換算しにくく、また光熱費や通信費などは仕事で使った分とプライベートで使った分の仕分けが難しいもの。こうした「見えにくいコスト」を会社にどう主張していくか、これもまたあらためて考える必要が出てきます。
「個人事業主マインド」が必要になる
日本には、会社員が本業にかかった費用を「個人の経費」として計上する仕組みがありません。欧米では会社員も確定申告をするのが一般的で、在宅勤務にかかったコストも個人個人が経費として計上できます。そのため、経費に関しては、会社員も個人事業主と同じように高い意識を持っていることがほとんどです。
対して、日本の会社員は長らく「雇用されている」という意識の下で、職住分離が前提の働き方をしてきました。この職住分離が変わりつつある今、意識のほうも欧米のような「個人事業主マインド」に変化させていく必要があるように思います。
会社に管理してもらう、雇用を守ってもらうといった意識を改めて、働く時間も場所も自分の裁量で管理し、そこにかかったコストは正当に要求していく──。職住融合を前提とするなら、この働き方のほうがメリットを得られるはずです。オフィスの仕組みをそのまま自宅に持ってくるのではなく、在宅勤務ならではの新しい働き方、新しいマインドセットをつくっていくのです。
有償労働と無償労働の境界についても、一人ひとりが事業主という意識を持って会社と話し合い、前例を積み上げていくことで、解決が可能になるのではないかと思います。