テレワークも地方移転も進まない日本の政府機関

政府が進める地方創生の一環として、7月に閣議決定した基本方針では、内閣府調査も踏まえて、地方移住への関心が高まっていると分析し、東京一極集中の是正策が盛り込まれている。東京ではなく地方でも在宅勤務ができるような環境整備を支援、東京に本社を置く企業に対し、サテライトオフィスを誘致する地方自治体の取り組みにも援助し、地方への移住を促進しようとする取り組みと位置付けられた。

地方創生の柱のひとつとして安倍政権が掲げている政府機関の移転を巡り、徳島県への全面移転を計画していた消費者庁は、国会議員による質問対応を含めた国会対策全般や危機管理に支障が出かねないと判断し、完全に頓挫した。文化庁は2021年度中に京都に移転する予定だったものの、庁舎の整備が間に合わないため、2022年度中に先送りされた。言うまでもないが、これらは政府機関のほんの一部に過ぎない。ほとんどの中央省庁は地方への移転に乗り気でないのが実情だ。

思わぬ形で、郊外への人の流れが進み始めた米国。かたや、地方への移住に対する機運がそれほど高まることなく、率先する形の政府機関移転も不十分な日本。大都市の郊外への移動と、地方への移動という違いはあるが、あまりにも対照的だ。背景にはコロナ禍の中、オフィスに通わざるを得ないか否かという問題があり、在宅勤務が完全に日常風景となった米国の方が、「クオリティ・オブ・ライフ」を追求する傾向にあると言えるかもしれない。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。