高層アパートの自宅にずっといるのは息が詰まる
NYでは、ミュージカルやオペラは長らく中断、野球などのプロスポーツは無観客で開催され、娯楽を直接享受する機会は奪われたままだ。屋内での飲食は今も禁止されており、路上や駐車場に並べられたテーブル・椅子での屋外飲食だけが可能。高層アパート内のエレベーターや内廊下では、常に人との距離に留意しなければならない。なおかつ、在宅勤務でずっと自宅にいなければならず、思わず息が詰まり、移住を決断する市民の気持ちもうなずける。
妻の転勤に同行するために休職しての渡米が決まり、マンハッタンでの高層アパート暮らしを夢見ていた筆者だが、妻の勤務地の都合などで、マンハッタンまでバスで30分ほど離れたNJ州の一軒家での生活に落ち着いた。思わぬコロナ禍を受け、わずかばかりの芝生庭があり、在宅勤務中の隣人の声が聞こえてくることもなく、ストレスが溜まった子どもが気兼ねなく走り回れる今の環境こそ、米国が持つスケールメリットを感じられると、このところ思い直している。
日本では若者の意識は変化したものの……
内閣府が6月に公表した調査結果によると、コロナ禍を踏まえ、若い世代ほど地方移住への「関心が高くなった」と回答。とりわけ、東京23区に住む20代では、35.4%に上った。この質問の調査対象は、首都圏と大阪圏、名古屋圏の1都2府7県の人たちで、全世代では15.0%にとどまっている。年齢別では、20代の22.1%を筆頭に、30代の20.0%、40代は15.2%、50歳以上が10.2%となっている。
若者は柔軟に考えている反面、家族や子どもがいて、住宅ローンを抱えているような世代には、日々の生活が現実そのものであり、なかなか移住には及び腰どころか、発想すら頭の片隅にもない、といったところだろうか。都市圏から地方ではなく、都内から埼玉、大阪から奈良など都市圏内の移住となれば、もう少し割合は高まるのかもしれない。もっとも、テレワークがそれほど浸透していないため、むしろ通勤時間が長くなってしまうのが難点か。