インバウンドがゼロになるより深刻な大問題
今回のコロナで、インバウンドはゼロになりました。ただ、その影響はみなさんが考えるほど大きくありません。日本の観光産業は約28兆円の市場で、インバウンドは4.8兆円です。4.8兆円は小さくありませんが、じつは日本から海外に行く市場が約3兆円ある。これが国内に戻ると考えて差し引きすれば、2兆円弱しか失わない計算です(図表2)。
問題は、日本人による国内旅行市場です。ここが止まり続けると打撃が大きい。コロナが終息するまで第2波第3波で需要が落ちる期間がまたあるはずですが、緩和期にいかに需要を戻せるかが勝負になります。
国内旅行に関しては、アフターコロナも課題が残ります。いま国内観光を支えているのは団塊の世代です。団塊の世代は2025年に全員が後期高齢者に入りますから、旅行参加率はどうしても落ちていく。これはインバウンドよりずっと大きな問題です。
必要なのはシニア割ではなく若者割
高齢になれば旅行しづらくなるのは自然なことです。私が懸念しているのは、20代が国内旅行をしていないこと。私の世代が学生だったころは、オートバイで北海道を一周したり、青春18きっぷで鉄道を乗り継いで旅行する人が大勢いました。しかし、いまの20代はLCCで台湾や韓国に行く。国内旅行の魅力を観光産業が伝えきれていないのです。
このまま若い世代へのプロモーションに失敗すると、日本の観光市場は減少に転じます。これを防ぐには、20代に国内旅行のおもしろさに気づいてもらわないといけません。星野リゾートは、20代をターゲットとするBEBというサブブランドを展開しています。20代はシニアと違う旅行ニーズを持っており、そのニーズに応える施設です。また、若い世代に温泉旅館に戻ってきてもらうため、界ブランドでは20代限定で特別価格の「界タビ20s」というプランをご用意しています。
日本の観光業界がやらないといけないのは、シニア割引ではなく20代割引です。それをきっかけに20代に国内旅行の楽しさを知ってもらい、30、40代になって家族をもったときに日本の観光市場を支えてもらうのです。コロナで海外旅行は難しくなったので、ある意味でいまは若い世代に国内旅行を知ってもらうチャンスです。この機会をしっかり活かしたいですね。
構成=村上 敬 撮影=強田美央
1960年、長野県生まれ。83年慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年より現職。いち早くリゾート運営サービスの提供に特化し、「星のや」「界」「リゾナーレ」等のブランドでホテル・リゾート施設を展開している。