場違いという経験を積んで自身のランクを上げよう

チャンスを広げたい、もっと上のポジションに就きたいと思っても、一段上の世界では礼儀作法はまったく異なる。これはどこにも書かれていないし、誰も教えてはくれない。ではどうするか。

「ひとつは、厳しい人にしがみつくこと。褒めてくれない、指摘される、本人はつらいかもしれないが、嫌なことをあえて言ってくれる人を見つけてそれまでの自分の行動が恥ずかしいものだったのだと気づくこと。もうひとつは、自分が場違いであるという背伸びした経験を積むこと。超高級ホテルやレストランに出向き、自分が選別される体験をしてみる。落ちたかどうかに気づくのは本人のセンスです」

この場合、見られているところは3つ。靴、服装、そして足の運び方。その場に合った靴を履いているか。いい靴でなくてもよいが、ヒールならつま先と踵かかとのメンテナンスは必須だ。次にその場にふさわしい服装か。その服を着ることで自分に自信が持てるかどうかも重要になる。最後に足の運び方を見るのは、落ち着かないと足元がおどおどするから。

「格上のところにチャレンジするのだから緊張もするでしょう。そこにどれだけのメンタル力があるか、それが“品格”として表れます」

どういうルールなのか、どうすればいいのかわからなければ緊張する。そんなとき、マナーを知っていることで緊張から解放され、よりリラックスして品格ある行動ができる。

「何よりメリットやデメリットで考えないこと。相手に気に入られるため(他者承認)ではなく、自己肯定感を高めるために礼儀を身につける。なぜこうするとスマートに見えるのか、なぜあの人にはチャンスが来るのか、その理由を知りつつ楽しむことのほうがずっと大事なのです」

仕事を含む日常の中には、チャンスが無限にある。礼節ある“感じのいい人”がそれをつかめるのだ。

構成=横山久美子 撮影=足利孝二

中谷 彰宏(なかたに・あきひろ)
作家

1959年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て独立。私塾「中谷塾」を主宰し、全国で講演、ワークショップ活動を行っている。著書には『今日から「印象美人」』『いい女のしぐさ』(ともに、だいわ文庫)、『なぜあの人は「教養」があるのか。』(水王舎)など1070冊以上。