営業マンと仲良くなりすぎない

最後は3つ目の密、「密接」です。この場合の「密接」は近い距離で会話するということではなく、人間関係が密接になるということです。私が証券会社の営業マンをやっていた頃、先輩からは「セールスとは商品を売るのでは無くて人間を売り込むのだ」とよく言われました。私自身はこの言葉にやや抵抗がありましたが、事実はその通りで、顧客は商品以上に担当者を気に入ってくれて取引が始まることも多かったのです。

まあ確かに人間ですからやはり気持ちよく取引できる人と付き合いたいという気持ちはわかりますが、だからと言って勧められる商品が良い物なのか、あるいは自分に合ったものなのかは担当者との相性とは必ずしも一致しません。金融商品取引というのは証券でも預金でも保険でも、すべからく「勘定」に基づいて冷静に判断しなければならないのに、ややもすると「感情」で判断してしまいがちになります。高齢者が金融詐欺に遭うパターンの一つに、「孤独で寂しいお年寄りに対して親切に話しかけ、よく話を聞いてくれるので信用し、任せた結果お金をだまし取られる」というのがあります。

今でも恐らく多くの金融機関では「まずお客様と仲良くなることが大切だ」と教えられ、顧客との“密接”な関係作りを指導しているところもあるでしょう。逆にあまりにも営業マンと親しくなってしまうと、勧められた商品がちょっと疑問に思っている部分があっても「あの人が言うのだから大丈夫だろう」と思って購入してしまいかねません。したがって必要以上に営業マンと親しくなることは慎む、すなわち「密接」を避けることは必要です。

山崎元さんが加えるもう一つの密とは

以上が3つの「密」なのですが、山崎元さんは、これらに加えて四つ目の「密」として「秘密」を挙げています。「ここだけの秘密ですが」とか「実は秘密で儲かる商品があるのですが」とささやかれたら要注意ということです。私は、これについてはさすがにまともな金融機関であればこんなセールストークで持ちかけてくるところはないでしょうから(下手をしたらインサイダー取引という犯罪行為になってしまいますので)、もしそういうことを持ちかけられたとしたら問答無用で一切話を聞かない方が良いだろうと思います。

ただ、前述の3つの「密」は違法行為でも何でもありませんから気がつくと「密」状態になってしまうことはあるでしょう。でもこうした3つの「密」で金融商品の購入を決めてはいけません。なぜなら本来、金融商品の取引は、自らが勉強し、情報を集めた上で最終的には自分で判断することが求められるものだからです。それに、取引の結果については誰も責任を取ってくれるわけではなく、すべて決めたあなたの責任であるということを忘れてはいけません。コロナウイルスの感染防止同様、金融取引での後悔防止には「3密を避ける」ことが必須であることは覚えておいたほうが良いでしょう。

写真=iStock.com

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。