金融機関は、まとまったお金が入った人にすごく優しい

これは特に退職金をもらったり、あるいは相続でまとまったお金が入ってきたりした場合に起こりうることですが、まとまったお金の入った人に対して金融機関はとても親切です。店舗に出かけても立派な応接室に案内してくれてお茶が出てきます。あるいは店頭のブースで様々な資料を一杯出してきて丁寧に詳しく、そして、いかにその商品が優れているかについて熱心に話をしてくれます。言わば密閉空間ですね。人はそういう閉ざされた空間において様々な情報を一挙にインプットされると、思考能力が低下し、信じ込みやすくなります。

「洗脳」とまでは言わないものの、短時間で大量の情報を処理するのは人間の脳の力では限界があります。いきおい、示されたデータやセールストークによって簡単に信じてしまうことは十分に起こりうることです。

これは店舗に出向いた時だけではなく、相手の営業マンが家に来た場合も同様です。証券や保険の営業マンが来てその人の話だけを聞いて金融商品を購入するのは禁物です。様々な資料や他のデータや意見なども聞きながら、最後は自分で判断して決めるべきなのです。密閉空間における判断は思い込みに陥りやすいことは知っておくべきでしょう。

密集した場では同調圧力がかかりやすい

次に二つ目の密、「密集」です。人がたくさん集まるところというのは金融機関で言えばセミナーです。資産運用に関するセミナーはいろんなところで開催されていますし、私も自分自身が講師になって資産運用のセミナーをすることもあります。それらのセミナーの中には有料のものも無料のものもありますが、金融機関が主催するセミナーの多くは無料です。

有料だから良くて無料だから悪いというわけではありませんが、“無料”というのは別にボランティアでやっているわけではないので、無料で顧客を引き寄せることで何か商売につなげたい思惑がある、と考えるのが普通です。つまり金融機関が開催するセミナーの多くは「既存顧客への取引拡大のための情報提供サービス」か、あるいは「新規顧客獲得のための勧誘活動」と考えるべきです。

前者の典型は株式投資セミナーですが、後者の場合は様々な金融商品の販売をその目的としています。気を付けるべきなのは後者の「密集」です。これはある意味閉ざされた空間である「密閉」よりも場合によっては危ないかもしれません。なぜなら、そういう「場」において集まった人が影響を受け、「これは良い商品だ!」と思った場合、その感情や空気は他の参加者にも伝達していくからです。行動経済学でも「同調伝達」というのがあり、よくわからないけどみんなが良いというのならやってみよう、という心理は間違いなく存在します。特に日本人は同調圧力が強いと言われていますので。これも十分に注意することが必要でしょう。