新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3つの密を避けるよう推奨されています。コラムニストの大江英樹さんは、これはそのまま、自分の大事な資産を守るために必要な態度でもあると言います。どういうことなのでしょうか。
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※写真はイメージです(写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai)

金融機関と取引するときの注意点

新型コロナウイルスの集団発生防止のため、3つの「密」を避けましょうということはあらゆる機会を通じて言われています。みなさんも既によくご存じかと思いますが、3つの「密」とは、(1)換気の悪い密閉空間(2)多数が集まる密集場所(3)間近で会話や発声をする密接場面のことであり、日常生活においては、この3密を避けることがコロナウイルス感染防止に最も効果的な方法の一つである、と言われています。

当然、多くの人がこれを避けるべく行動をしているのだと思いますが、先日、YouTubeで経済評論家の山崎元さんが「お金を守るためには4つの密を避けましょう」とお話されているのを見ました。とても面白かったのと共感するところも多かったので、それらについて私なりの解釈も含めて、少し詳しくお話をしたいと思います。

金融機関と取引する際に3密である「密閉」、「密集」、「密接」を避けるべきだというのは表現こそ異なるものの、これまで私がずっと言い続けてきた「金融機関と取引する際に注意すべきこと」とほぼ同じです。この3つの「密」について一つひとつお話しましょう。

まずは「密閉」からです。

金融機関は、まとまったお金が入った人にすごく優しい

これは特に退職金をもらったり、あるいは相続でまとまったお金が入ってきたりした場合に起こりうることですが、まとまったお金の入った人に対して金融機関はとても親切です。店舗に出かけても立派な応接室に案内してくれてお茶が出てきます。あるいは店頭のブースで様々な資料を一杯出してきて丁寧に詳しく、そして、いかにその商品が優れているかについて熱心に話をしてくれます。言わば密閉空間ですね。人はそういう閉ざされた空間において様々な情報を一挙にインプットされると、思考能力が低下し、信じ込みやすくなります。

「洗脳」とまでは言わないものの、短時間で大量の情報を処理するのは人間の脳の力では限界があります。いきおい、示されたデータやセールストークによって簡単に信じてしまうことは十分に起こりうることです。

これは店舗に出向いた時だけではなく、相手の営業マンが家に来た場合も同様です。証券や保険の営業マンが来てその人の話だけを聞いて金融商品を購入するのは禁物です。様々な資料や他のデータや意見なども聞きながら、最後は自分で判断して決めるべきなのです。密閉空間における判断は思い込みに陥りやすいことは知っておくべきでしょう。

密集した場では同調圧力がかかりやすい

次に二つ目の密、「密集」です。人がたくさん集まるところというのは金融機関で言えばセミナーです。資産運用に関するセミナーはいろんなところで開催されていますし、私も自分自身が講師になって資産運用のセミナーをすることもあります。それらのセミナーの中には有料のものも無料のものもありますが、金融機関が主催するセミナーの多くは無料です。

有料だから良くて無料だから悪いというわけではありませんが、“無料”というのは別にボランティアでやっているわけではないので、無料で顧客を引き寄せることで何か商売につなげたい思惑がある、と考えるのが普通です。つまり金融機関が開催するセミナーの多くは「既存顧客への取引拡大のための情報提供サービス」か、あるいは「新規顧客獲得のための勧誘活動」と考えるべきです。

前者の典型は株式投資セミナーですが、後者の場合は様々な金融商品の販売をその目的としています。気を付けるべきなのは後者の「密集」です。これはある意味閉ざされた空間である「密閉」よりも場合によっては危ないかもしれません。なぜなら、そういう「場」において集まった人が影響を受け、「これは良い商品だ!」と思った場合、その感情や空気は他の参加者にも伝達していくからです。行動経済学でも「同調伝達」というのがあり、よくわからないけどみんなが良いというのならやってみよう、という心理は間違いなく存在します。特に日本人は同調圧力が強いと言われていますので。これも十分に注意することが必要でしょう。

営業マンと仲良くなりすぎない

最後は3つ目の密、「密接」です。この場合の「密接」は近い距離で会話するということではなく、人間関係が密接になるということです。私が証券会社の営業マンをやっていた頃、先輩からは「セールスとは商品を売るのでは無くて人間を売り込むのだ」とよく言われました。私自身はこの言葉にやや抵抗がありましたが、事実はその通りで、顧客は商品以上に担当者を気に入ってくれて取引が始まることも多かったのです。

まあ確かに人間ですからやはり気持ちよく取引できる人と付き合いたいという気持ちはわかりますが、だからと言って勧められる商品が良い物なのか、あるいは自分に合ったものなのかは担当者との相性とは必ずしも一致しません。金融商品取引というのは証券でも預金でも保険でも、すべからく「勘定」に基づいて冷静に判断しなければならないのに、ややもすると「感情」で判断してしまいがちになります。高齢者が金融詐欺に遭うパターンの一つに、「孤独で寂しいお年寄りに対して親切に話しかけ、よく話を聞いてくれるので信用し、任せた結果お金をだまし取られる」というのがあります。

今でも恐らく多くの金融機関では「まずお客様と仲良くなることが大切だ」と教えられ、顧客との“密接”な関係作りを指導しているところもあるでしょう。逆にあまりにも営業マンと親しくなってしまうと、勧められた商品がちょっと疑問に思っている部分があっても「あの人が言うのだから大丈夫だろう」と思って購入してしまいかねません。したがって必要以上に営業マンと親しくなることは慎む、すなわち「密接」を避けることは必要です。

山崎元さんが加えるもう一つの密とは

以上が3つの「密」なのですが、山崎元さんは、これらに加えて四つ目の「密」として「秘密」を挙げています。「ここだけの秘密ですが」とか「実は秘密で儲かる商品があるのですが」とささやかれたら要注意ということです。私は、これについてはさすがにまともな金融機関であればこんなセールストークで持ちかけてくるところはないでしょうから(下手をしたらインサイダー取引という犯罪行為になってしまいますので)、もしそういうことを持ちかけられたとしたら問答無用で一切話を聞かない方が良いだろうと思います。

ただ、前述の3つの「密」は違法行為でも何でもありませんから気がつくと「密」状態になってしまうことはあるでしょう。でもこうした3つの「密」で金融商品の購入を決めてはいけません。なぜなら本来、金融商品の取引は、自らが勉強し、情報を集めた上で最終的には自分で判断することが求められるものだからです。それに、取引の結果については誰も責任を取ってくれるわけではなく、すべて決めたあなたの責任であるということを忘れてはいけません。コロナウイルスの感染防止同様、金融取引での後悔防止には「3密を避ける」ことが必須であることは覚えておいたほうが良いでしょう。