海外企業との契約交渉は、論理的思考力を身につけることに役立ちました。インテル、マイクロソフトなどの大きなIT企業には、多様な背景を持つ人がいます。彼らと交渉する際に、共通認識としての数字はもちろん、論理的思考が必要になるのは、ビジネス上公平でWin-Winな関係を保つためというのが大きな理由。たとえば発注の値段が低ければ、その代わりに長期的にコミットする、またソフトウエアを個別開発するとリソースが分散してサプライチェーン全体の付加価値が下がるので、共同開発にするなど。そうすることでビジネスを可能な限り継続できます。
東芝勤務時代、管理職になってからは、かなり手厚い経営者向けの研修を長期にわたって受ける機会がありました。財務、制度会計(会社外部の利害関係者に説明するもの)、管理会計(会社内部の人が意思決定する際に参考にするもの)などについても、アカデミックな勉強を網羅。その勉強の蓄積が後々役に立ちました。
25年間勤務したあと東芝を退職し、JFEエンジニアリングに入社。未経験の経理部長を任されたときは、東芝時代の勉強で培ったものをフル装備して挑みました。でも、実務でピンとこない点が多々あったので、いろいろな角度で情報を収集。経営を担ううえでの貢献ポイントや、ポジショニングを探るのに苦労しましたね。
経理の実務では法律の知識がものをいう
経理の実務を行う場合、複式簿記がある程度できれば、法律に詳しいかどうかが大きなポイントになります。リーガルマインドは会社のガバナンスやコンプライアンスにつながりますし、財務、制度会計を行うにも法的判断力は非常に重要。数字そのものの理解に加えて、法律の知識が重要視されるのです。
もちろん複式簿記の知識はあったほうがいいので、それを学びつつICT(情報通信技術)のリテラシーを磨くこともおすすめします。私自身は、時間があればJavaScriptやRubyなどのプログラミング言語を使ってソフトウエアを動かしたり、HTMLやCSSを用いてホームページを作ったりもしています。
これからの高度なAI(人工知能)時代についていくには、プログラミングの本質を知り「IT脳」を鍛える勉強も大事だと思います。
『財務会計講義 第16版』
●桜井久勝著(中央経済社)
財務会計を独学で学んだ本。
『実戦テキスト 簿記論』
●小林秀行、並木秀明、長島正浩著(中央経済社)
簿記で必要な知識がここに詰め込まれている。
『ANALYSIS FOR FINANCIAL MANAGEMENT』
●ロバート・C・ヒギンス著(マグローヒルエデュケーション)
ハーバードビジネススクールで学んだテキストは今も読み返す。
▼愛読書
『ライフ・シフト100年時代の人生戦略』
●リンダ・グラットン他著(東洋経済新報社)
よく整理された内容で、「その通り!」と納得した。
『ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階』
●ジェームズ・C・コリンズ著(日経BP社)
東芝時代に読破。大企業が衰退する様が衝撃。
構成=東野りか 撮影=堀 隆弘