中国経済はどうなるか

さて、もう一方の中国。こちらは徹底的なロックダウンにより早々と感染は終息しつつある。ただし、原材料などのサプライチェーンの問題、欧米日などの主要供給先のニーズ不足などにより、本格稼働はまだ先になりそうだ。

半年から一年後、ワクチンや特効薬が開発され、世界中は正常軌道に戻る。ただし、中国の経済成長はもう、元には戻らないと考えている。直近でも年率6%あった成長率は、数年かけて低下し、4%弱で安定するのではないか。

そもそも、中国の成長率はおおよそ経済や産業を見てきた研究者の予想を大きく上回り続けた。世界中の多くの国で年率10%以上の高度経済成長期はあったが、そうして国家が裕福になり、一人当たりの国民所得が1万ドルに迫るころ、成長は急激に鈍化し安定成長期に入る。一つには賃金が上がりすぎて海外からの投資が減り、空洞化が起きるからだ。そしてもう一つは、農村から都市部に人口が移動しつくし、新たな労働力が確保しづらくなることがあげられえる。こうして成長率が収まり足踏みすることを「中進国の罠」とか「ルイスの転換点超え」などと呼ぶ。

さらにもう一つ。15~65歳までの生産年齢人口――すなわち労働しやすい年齢層の人口が減り始めると、国家経済は安定成長期からゼロ成長期へと移行する。日本は1996年にこの時期を迎えた。

こうしたな経済発展則に照らしてみて、中国はまさに「異常」なのだ。所得レベル、農村人口、生産年齢人口、すべてが転換点を超えているのに、まだ年率6%も成長していた。まさに今までが奇跡だったのだ。

トランプ関税が壊した夢の世界

なぜ高成長が続いたか。その理由は、工場の海外移転――空洞化が起きなかったことにある。ではなぜ空洞化が起きなかったかというと、①14億人という巨大な国内市場があるため、そちら向けの生産でも十分儲かる。②知的水準が高く、言語も世界最多話者数を誇る中国語で通じる利便性の高い社会。この二つがあるため、多少賃金が上がっても、工場を海外に移すという選択肢がとられなかった。

そのため、国民所得が1万ドルに迫る中でも、GDPの第二次産業比率が4割と高止まりした。先進国なら2割、中進国でも3割強という中で明らかに「過剰な工場」が残っていたといえよう。

日・欧米企業は、こうした生産の中国一極化に危うさを感じ、2013年ころから「Chaina+1」(中国以外にもう一拠点設ける)戦略を謳ったが、上記①②の心地よさのため、それは掛け声倒れだったのだ。

この風向きが変わるのが、トランプ関税が始まってからだ。多くの製品に15%もの関税が載せられる。これは人件費が1.5倍になったのと同じで、明らかに採算はとれない。そこで、ようやく重い腰を上げ、昨今、ベトナム、タイなどの生産比率を上げだした。その結果、2018年以降、中国のGDPに対する第二次産業の比率は、毎年1%強下がり、現在は36.8%にまで落ちた。

この流れが、コロナ禍でさらに激しくなると予想する。

生産拠点を一極集中させると、災害が起きた時にサプライチェーンが寸断される。東日本大震災でも起こったこの問題を、改めて今回多くの企業が感じただろう。

だから、中国からの工場の逃避は歩速を上げる。その結果、中国のGDP成長率は毎年0.5%程度低下し続け4%程度に落ち着くだろう。