ヨーロッパに“きつい会社”が少ない理由
日本には、まだこうした企業のほうが圧倒的に多いように思います。ヨーロッパの多くの国できつい働き方の企業が少ないのは、労働者側が「それなら辞めます」と言いやすいから。失業保険や転職支援が充実しているので、一つの企業にしがみつく必要がないのです。
一方アメリカは、失業保険は手厚くありませんが、転職がヨーロッパ以上に盛んです。雇用の流動性がとても高いため、これまた一つの企業で我慢し続ける必要が小さくなります。ヨーロッパでもアメリカでも、働き方がきつい企業は人が辞めていく、つまり淘汰されていく圧力が働きやすいのです。
日本も、失業保険や失業中の再就職支援を手厚くするか、雇用を流動的にするか、どちらかの手を打てば、企業側は淘汰されないよう働き方改革に取り組まざるを得なくなります。しかし、残念なことに、いまのところ日本はどちらにも進みそうにありません。
転職市場はアメリカほど活性化しておらず、失業保障も手厚くしようという議論は起こっていません。職務や勤務地を選べないメンバーシップ型雇用や年功序列、柔軟性に欠ける勤務体系など、働くにあたって不利な条件も密集しています。
日本型の働き方が引き起こした弊害
こうした日本型の働き方は、元はどれも良かれと思ってつくり上げられたものですが、結果として会社への従属やジェンダーギャップ、満員電車といった弊害も生み出してしまいました。このように意図とは異なる結果が起こってしまう──これを、社会学では「意図せざる結果」と言います。
新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されても、満員電車がなくならないのは、働き方改革が進んでいなかったからです。そして働き方改革が進まなかったのは、「意図せざる結果」として、日本型の硬直した働き方やミスに不寛容な社会が出来上がってしまったからと言えるでしょう。
リモートワークをはじめとする多様な働き方の実現は、女性活躍にも介護離職の防止にも欠かせません。今回の感染拡大は残念なことではありますが、せめてこれを機に、各企業で働き方の見直しが進むことを願っています。
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。