夫婦同姓は日本古来の伝統ではない

実は「夫婦同姓を強要する法律は改正すべき」という案は、過去に何度も議論されてきました。1996年に法制審議会の答申があって、すぐにでも法改正されてよい状態だったのですが、結局国会に上程されずに終わってしまった。

このときの主な反対派の意見は「夫婦同姓は日本の伝統なので、これを守るべき」というものでしたが、人類学者60名が出した1996年5月の抗議文のなかには「夫婦同姓は日本の伝統ではない。文化を研究する者として強く訴える」という一文があります。

もともと日本は夫婦別姓であり、結婚によって「氏」を変える文化・風習はありません。夫婦同姓はドイツの法律にならって明治31年(1898年)に導入したものです。

そもそも日本の民法で最初に夫婦の氏の在り方が決められたのは明治9年のことで、そのときは夫婦別姓でした。それが明治31年に家制度という差別的な制度を導入するにあたり、ドイツの法を参考にして法律を変えた。そして家制度自体、ほかの家族の生殺与奪権を戸主が全部握るような差別的な制度だったため、49年間しか存続せず、1947年に廃止されています。ところが姓の在り方だけが、いまも家制度のままなのです。

国連の3度にわたる是正勧告を無視

この40年間、法改正議論はずっと続いていますが、日本の伝統の在り方を誤解している人、女性蔑視を続けたい人など、おそらく家父長制というものに味を占めたごく一部の人たちの強硬な反対によって、いままで変えられずにきたのではないでしょうか。

そのあいだにも日本以外の国は法改正していて、2014年以降、夫婦同姓を強制する国は日本以外にはひとつもありません。この状態に対して国連は「女性にも男性と同じ権利を与えなさい」「氏はアイデンティティーにかかわるものだから、それを奪ってはならない」と、2003年、2009年、2016年の3回にわたって是正勧告をしていますが、日本はそれを聞き入れていない唯一の国なのです。是正勧告を受けるたびに、苦しい言い訳をしています。いわく「同じ姓でないと家族としての一体感がない」「同じ姓でないと子供がかわいそう」。

同姓が絆をつなぐという感情論

しかし家族の姓がバラバラな国は外国にいくらでもあります。たとえばラテンアメリカのスペイン語圏では、母親から一つ、父親から一つ、氏を受け継いで連結姓にする。そうすると親とは姓が部分的にしか同じではないのが当たり前。まったく同じ姓を持つのは、同じ父親と母親から生まれたきょうだいしかいません。それでも家族は家族として絆をちゃんと育んでいる。

あるいは私の姉はカナダのケベック州という100%夫婦別姓の地域に暮らしていますが、ここは結婚改姓が禁止されています。ジェンダー平等と、移民の国なので自分のルーツを大事にしようというのが理由。

このように世界各国で普通に運用されている制度が、どうして日本では子供に悪影響があるという懸念の種にされてしまうのか。実際に別姓事実婚家庭で育った子どもたちが2020年2月14日、国会議員40人の前で「私たちは両親がそれぞれの名字であることが『普通』という感覚で育ち、それで今まで何も困ることはなかった」と証言。「望まない改姓をせずに法的な家族になれる選択肢を」と訴えました。

姓が絆をつなぐものであるというのは、感情論にすぎないのではないでしょうか。

「選択制にすると離婚が増える」という人もいますが、それならなぜ現在、3組に1組の割合で離婚するのでしょう。氏の在り方と離婚はまったく関連がないと思います。