そして自分を心から愛せるようになったころ、「篤姫」の仕事が来たのです。本当に幸せで「もう誰もいらない」と思っていたときに出会ったのが再婚した彼。私は子どもがいたので結婚する気はなかったけれど、子どもたちにも勧められて決意。彼はとても大人だったし、あらゆる意味でカッコいい男でした。

彼は誰よりも私を愛し、最も理解してくれた人

でも、不思議なことに、「篤姫」を書き終わる直前に夫の病気がわかりました。彼はぎりぎりまで仕事をして、最後まで家族を思いやりながら、3カ月後に亡くなってしまう。わずか2年半の結婚生活で帰らぬ人となったのです。それでも彼は誰よりも私を愛し、最も理解してくれた人。最高に贅沢な恋愛でした。

恋愛とはつまり、一生ものというくらいの覚悟で付き合っていいものでもあると思います。それは一生に1度の大恋愛なのか、1回結婚して終わるのか、夫を亡くしてから始まるのかもわからないけれど、とにかくその主人公は自分なのだということだけは忘れないでほしいのです。

仕事か恋愛かとはかりにかける必要もありません。働く女性たちはがんばるあまり、つい仕事がメインになりがち。でも、私たちは仕事のために生まれてきたのではなく、自分はどう生きるかという道程の中に仕事があり、恋愛があると思うのです。

私はずっと仕事を続けていますが、仕事がすべてと思ったことは1度もないし、恋愛をしていてもそれがすべてと思ったこともない。いつでも私がどう生きたいかが一番で、そのための仕事であり、恋愛であると。これが定まると、人生はもっとおもしろくなると思うのです。

自分が主人公でいる限り人生はときめくので、仕事にもハリが生まれて、心が安定していく。自分が安定していると恋愛を楽しむ余裕や喜びも感じられます。だからこそ、自分らしい生き方、自分とは何なのかを知ることが大事なのです。他人と恋愛する前にまず、自分との恋愛を意識してほしいのです。

自分自身を愛している人は仕事にも依存しすぎなくなります。仕事も自分の人生の喜びになるので、感謝の気持ちしかなくなるのです。仕事があることに感謝し、憎い上司までが何だかありがたい気がしてくるとか(笑)。そうするとまた仕事もうまく運び始める。だから、恋愛も仕事のはけ口になることなく、喜びに満たされたものになると思うのです。

私がお願いしたいのは、仕事のはけ口としての恋愛を求めないでほしいということ。そんなときは本当に大した恋愛にならないことのほうが多いのです。むしろ1人のときは自分とせいぜい恋愛をして、自分自身が安定することが大切。そして自分を大切に思える心を持ってこそ、仕事も恋愛もすごく豊かなものになっていくことでしょう。

大人の恋愛はもちろん最高でおもしろい。でも、もっとゴージャスにしたいと思ったら、まず自分と恋愛してほしいですね。

※「篤姫」……2008年1月~12月に放映された、NHK大河ドラマ47作目の作品。幕末を舞台とした作品の中で過去最高の視聴率を誇る大ヒット作。

構成=歌代幸子 写真=iStock.com

田渕 久美子(たぶち・くみこ)
脚本家・作家

NHK大河ドラマ「篤姫」「江」、連続テレビ小説「さくら」(橋田壽賀子賞受賞)、その他話題作を多数執筆。近著に『おね』上下巻(NHK出版)、『女塾』(主婦と生活社)など。執筆のほか、脚本セミナーや講演会など多岐にわたって活動している。