「思い込み」の怖さ
さらにこんなエピソードもあります。
早くに父を亡くした母子家庭の一人息子、交通事故に遭って入院したが一命はとりとめました。そこへ有名な交響楽団の指揮者が病室に飛び込んでくるなり、こう言って叫びました。「おお我が息子よ、命が無事で良かった!」
ちなみにこの母親は再婚していません。こんなことがあるでしょうか?
十分あります。この場合、母親が交響楽団の指揮者だったのです。指揮者と言えば男だと思い込んでしまっているのもヒューリスティックだからです。
このように少し冷静に考えればわかることでも感覚的に判断すると、一瞬勘違いしてしまうというのはよくあることです。
例えば日常の消費行動で考えてみましょう。以前にこのコラムでも書いたことがありますが(「バーゲンで大損する人の"心理的ワナ"3つ」)、バーゲンセールにおいて、以前の価格に二重線を引いて新しい価格を書くというのもアンカリングと言う名前のヒューリスティックです。何か辛いものを食べたいと思ってスーパーで買い物をする時に、無意識のうちに赤いパッケージのものを選んでしまうというのも赤=辛いものという連想が働くからでしょう。
日常の買い物をするぐらいなら、別に大きな問題ではありませんが、金融商品の購入については感覚的に判断するのは危険です。お茶でも飲みながら井の頭公園の都市伝説の話題で盛り上がるくらいなら良いですが、投資や保険については感覚やドタ勘で判断するのではなく、しっかり考えることがとても大切だと言えるでしょう。
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1952年大阪府生まれ。オフィス・リベルタス創業者。大手証券会社で個人資産運用業務や企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年まで勤務し、2012年に独立後は、「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるように支援する」という理念のもと、資産運用やライフプランニング、行動経済学に関する講演・研修・執筆活動を行った。日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会会員。著書に『投資賢者の心理学』(日経ビジネス人文庫)、『定年男子 定年女子』(共著・日経BP)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)、『お金の賢い減らし方』(光文社新書)など多数。2024年1月没。