世の中、別れる人のほうが圧倒的に多い

生涯でたった一人の男性としか付き合ったことがなく、その人と結婚したという人は、昔ならともかく、最近ではほとんどいないでしょう。誰でも何人かの人と付き合った後で誰かと結婚することになるはずです。仮に結婚するまで5人の人と付き合ったとすれば、その中から結婚するのはたった一人ですから後の4人とは別れたことになります。つまり付き合った人と別れる確率は80%、もし10人の人と付き合っていたのならその確率は90%になります。したがって、数の上で言えば、めでたくゴールインするよりも別れた人の方がはるかに多いわけです。

井の頭公園をはじめ、各地のいわゆる“カップル破局スポット”はいずれもその地域で有名なデートスポットばかりですから、結婚せずに別れた人とも行った可能性は高いでしょう。だとすれば「あ、やっぱりね。私も別れた彼とはそこへ行ったことあるもんね」と感じるのも無理はありません。でも確率論で考えればこれはごく当たり前のことです。

このように冷静に確率論で考えるのではなく、印象や感覚的に判断してしまうことを行動経済学ではヒューリスティックと言います。よく考えてみれば当たり前の確率論でわかることでも、イメージや感覚で判断してしまうと間違った判断になりがちなのです。ヒューリスティックに関しては有名な「リンダ問題」というのがあります。これは次のようなものです。

誰もが陥りがちなヒューリスティックとは

「リンダは30歳、ハーバード大学を卒業して独身。意見を率直に言い、またとても聡明です。彼女は学生時代に哲学を専攻し、差別や社会正義の問題にも深く関心を持ち、反原発のデモにも積極的に参加していました」

さて、リンダの現在の仕事や活動は次のうち、どちらである可能性が高いでしょう?

A. リンダは銀行員である
B. リンダは銀行員で女性活躍推進運動に参加している

さて、みなさんはどちらだと思いますか?「Bじゃないの?」と思った方、あなたは見事にヒューリスティックの罠に陥ってしまっています。この質問、「どちらがリンダっぽいですか?」と聞かれたら、恐らくBでしょう。でも質問は「どちらである可能性が高いですか?」と聞いています。つまり確率の問題です。もっと言えば数学の問題なのです。

みなさんも高校時代に「集合」という概念を習ったことがあるでしょう。図表1をご覧ください。世の中には「銀行員の人達」(A)という集合がありますね。一方、職業は様々でも「女性活躍推進運動に参加している人達」(B)という集合もあります。だとすれば、「銀行員で女性活躍推進運動に参加している人達」は両方の集合が重なった部分ですから、(C)の部分に該当します。すなわちここでの質問は(A)の面積と(C)の面積のどちらが大きいですか? ということを聞いているにすぎないのです。だったら答えはあきらかですね。