日本の消費税導入を振り返ってみると……
人が生きていく以上、好不況にかかわらず、消費活動がなくなることはあり得ません。その意味では消費税は、政府にとっては不況時でも確実に税収を確保できる「夢の財源」です。しかし庶民は、先に挙げた理由で、確実に反対します。ですから、消費税導入の歴史は、庶民からの反発の歴史でもあります。
日本における消費税の歴史を見てみると、まず1975年、石油危機後の赤字国債発行を断行した大平大蔵大臣(当時)が、「将来世代にツケを残してはならない」と心を痛め、1978年の首相就任以降、消費税導入を訴え続けます。しかし、それを果たせないまま、1980年の総選挙の最中に亡くなり、選挙そのものも敗北を喫してしまいました。
その後、1986年の衆参同日選挙の際、中曽根首相は「大型間接税はやらない。この顔が嘘をつく顔に見えますか?」という突っ込みどころ満載の発言をして選挙に勝利したのですが、その直後の国会に売上税法案を提出して、「これは大型じゃなく新型間接税だ」というさらに、ものすごい発言をします。しかし、これにはさすがに党内外と国民からの反発が強く、地方選挙で自民党が敗北したため、結局廃案となります。
そしてバブル真っ盛りの1988年、竹下首相でとうとう消費税法案が可決し、翌1989年から「消費税3%」がスタートします。しかし、それへの反発に加え、リクルート事件もあったため、竹下内閣の支持率は7%まで下がり、「消費税の3%といい勝負」などとマスコミに揶揄されてしまいます。
その後、1994年に細川首相が深夜、突然記者会見を開き、「消費税を廃止して7%の国民福祉税をつくる!」と発表しますが、細川ブームがすっかり去った後だったため「おいおいこの人、また夜中に変なこと言い出したよ」と国民の反応も冷ややかで、その後ほどなくして、細川内閣は倒れました。
その後も橋本内閣が、1997年に5%に増税したため参院選で敗北し、ようやく現在の安倍内閣になってから、選挙敗北を伴わずに消費増税を成功させ、2014年に8%、2019年に10%への増税に至ったわけです。
増税が女性活躍を推進するって本当?
ところで、今回の消費税増税は、「女性の働く意欲を高める」と予測されていることをご存知ですか。
その理由は2つあります。まず1つ目は「このままの収入ではやっていけない」という切迫した事情です。つまり消費税が上がると、軽減税率が適用される飲食料品と新聞以外のものを買うと10%も取られる。マイホームや自動車の購入時には、この10%がさらに重くのしかかる。ならば私も、もう配偶者控除の枠に収まって年収103万円以内だの201万円以内だの言ってる場合じゃない。扶養枠を外れてでも、もっと高い収入を見込める仕事に就かないと」という思いですね。
そしてもう1つは、政府が増税分の財源を「少子化対策に使う」と明言してくれているからです。
2017年に政府が打ち出した方針に、「人づくり革命」があります。人づくり革命とは、来るべき少子高齢化社会に向けた人材投資で、具体的な内容は「幼児教育の無償化/待機児童の解消/高等教育の無償化/高齢者雇用/リカレント教育(生涯にわたって教育・就労を交互に行うシステム)」などです。そのうち政府は2019年10月より、消費税が増税されると同時に、幼児教育の無償化をスタートさせると発表しており、これが実現するならば、同タイミングでの女性の就労にさらに弾みがつくものと思われます。
しかし正直、こういう形での労働意欲の向上は、不本意です。先行きに明確な安心感が示されないまま、負担だけが増加して、追い立てられるように働かされる形だからです。国民は馬鹿ではありませんから、ちゃんと明るい未来を確約してくれるのなら、そのための増税には理解を示します。今回の増税が、その場しのぎの財源確保に終わらないことを祈るばかりです。
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