O型以外の血液型にも輸血できる

では、なぜO型の人は献血するのだろうか。筆者たちは、献血の特性に注目した。血液型によって輸血ができる範囲が異なるという事実である。O型の血液型は、O型以外の血液型に輸血できるから、O型の人は利他性の程度が同じであっても、より多く社会貢献したいと考えるのではないだろうか。もし、そうなら、「O型の血液型は、O型以外の血液型に輸血できる」という知識をもった人にしか、血液型による献血比率の差は観察されないはずだ。逆に、この知識がない人の間には、血液型による献血率の差が観察されないと考えられる。

大竹文雄『行動経済学の使い方』岩波新書

回答者の74%は、「O型の血液型は、O型以外の血液型に輸血できる」という知識をもっている。この輸血可能性の知識をもっている人だけで分析すると、O型が献血する割合は回答者全体で分析したときよりも少し高まり、統計的にも差が見られる。一方、「O型の血液型は、O型以外の血液型に輸血できる」と思っていない人たちだけで分析すると、血液型間では献血率の差が見られなくなり、O型の人の献血率は他の血液型の人と変わらなくなる。

O型の人が他の血液型の人よりも献血する理由として、O型の血液型が他の血液型よりも恒常的に不足しているとか、他の血液型の人よりも健康であるという可能性もある。しかし、各都道府県別に各血液型の在庫率や季節変動や健康状態をコントロールしても、O型の人が献血する割合が高いという結果は変わらない。

医療現場では、血液型がわからない緊急事態や特定の血液型の血液が不足しているという状況ではない限り、O型の血液型が他の血液型の輸血に使われることはないそうだ。しかし、O型の血液型が他の血液型よりも広範囲に輸血に使うことができるということを知っているから、O型の人が献血をしているというのは興味深い。

寄付やボランティアを活発にする方法

私たちが社会に貢献したいという気持ちをもっていた場合、自分の社会貢献の効果がより大きければ、より多くの社会貢献をするという可能性があるということだ。医師、弁護士、芸能人などで、非常に所得が高い人が、ボランティアで医療行為、法律相談、チャリティー活動をすることがある。彼らは、その活動をしていなければ、より高い所得が得られたという意味で、ボランティアの機会費用が高い人たちである。そうした人たちは、利他性の程度が他の人と同じであれば、ボランティア活動をする比率が低くなるはずだ。しかし、医師、弁護士、芸能人たちは、彼らがボランティア活動をすることの社会的影響力が他の人たちよりも高いということを認識しているからこそ、積極的にボランティア活動をしているのではないだろうか。

寄付やボランティア活動を活発にするには、その活動が社会に役立っていることを人々に認識させることが効果的だと、O型の人の献血行動から言えそうだ。

写真=iStock.com

大竹 文雄(おおたけ・ふみお)
大阪大学大学院経済学研究科教授

編著書に『医療現場の行動経済学』(東洋経済新報社)、著書に『行動経済学の使い方』(岩波新書)、『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)ほか多数。