1000人アンケートに表れた「新しい皇室への期待」

「令和にあなたが求めることを教えてください」

アンケートの最後には、自由回答でこんな質問をした。「今まで通り平和で穏やかに」「戦争や災害のない、平和な世の中になってほしい」「経済安定、将来の不安がなくなり、希望の持てる社会になってほしい」など、平和や幸福度の上昇を求める回答が大勢だが、「日本の男女平等が進み、女性がこれ以上理不尽な目に遭わない社会へ」「雅子さまの外交力を活かして、世界での日本の存在感を出していってほしい」「女性天皇への議論が進むべき」など、日本社会や皇室の男女同権について言及した意見も目立つ。

日本人女性の中でも稀に見るほどの優れた経歴を持つキャリアウーマンが、日本のプリンスから是非にと請われて天皇家へ嫁ぎ、人々の様々な目論見や願望を一身に背負うプリンセスとなった。男子のお世継ぎを産むことを期待されるが叶わず、プリンセスを愛し全力で守ると宣言したプリンスが静かな怒りを湛えて「人格否定」とまで代弁するほどの周囲との軋轢の渦中で、プリンセスは適応障害と診断される。以来16年、自分が望んだのとは異なる表情をした「役割」を与えられ、ゆっくりとぎこちなくこなしながら、日本のプリンセス雅子は長い療養生活の中にあった。今も療養中ではあり、決して全快したわけではない。

その雅子さまが皇后となられて以来、大衆メディアで「令和のPVクイーン」とまで呼ばれるほどに人々の関心を引いている理由を、私は以前このコラムでこう書いた(「なぜ雅子様は突如として日本社会で復権したか」)。

 G20での雅子さまは有り体に言って、ゴージャスだった。語学力も国際外交力も、どこに出したって恥ずかしくない品格と教養と体格の持ち主である皇后が、もはやプリンセスなんて副次的な立場でなく主役の天皇夫妻として日本の外交の大舞台で堂々と振る舞い、海外の賞賛の声を獲得する。それは、欧米人に比べて「貧相」「貧弱」との印象をどうしたって払拭できない日本人が、政治やら外交の場で初めて「対等にゴージャス」と映る瞬間だったのだ。皇后雅子という存在は、男女にかかわらず日本外交史上「破格」であると、誰もが理解した。
 もともとの雅子さまファンたちは、「彼女がようやくあるべき姿に戻った」と感じて快哉を叫んだだろう。だがそれと同時に、あのG20で雅子さまの姿はどこか日本人の対外的な「誇り」にぴったりとマッチして、彼女は(ヒロインではなく)ヒーローになったのだ。

父や夫の添え物ではない新しい女性皇族の姿

昭和の頃から、皇室のあれこれは週刊誌や女性ゴシップ誌の「鉄板ネタ」ではあった。だが、それらを日頃から好んで読む層では決してなかったような人々までもが、別の観点から皇室への関心を高めている。どうやらその中には新皇后雅子さまや女性天皇議論への共感、関心があるらしいというのが、アンケートの自由回答から読み取れた。

「雅子さまの活躍を期待しています」「ご体調が心配ですが、無理なくご自身のペースで頑張って」「愛子さまを皇太子に」。雅子さまや愛子さまだけではない。これまでのバッシングや不遇を乗り越えて、父や夫の添え物ではなく自我のある個人として主体的に、新たな舞台で輝いていく新しい女性皇族。多くの人々は天皇家の新時代にこれからの日本社会や家族の姿を投影しているのだ。

写真=時事通信フォト

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト

1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。