愛着不形成が起こすさまざまな問題

ところが、養育者が子どもの情動に対して適切に対応していない場合、子どもは養育者の気まぐれな行動から生じる自分自身の混乱や苦痛のほうにより注意が向いてしまい、相手の心の状態を読み取ることにも困難が生じます。

子どもにとって、最初の人間関係である養育者との関係性のあり方は、その後の人間関係のテンプレートになります。その結果、養育者との安定した愛着を形成できた子どもは、その後も相手の心をきちんと理解し、相手への信頼や、自尊心(自分への適切な自信)を持ち、安定した人間関係を作っていけるのです。

逆に、人の感情が理解できなかったり、自信の無さから見捨てられる不安が強くなったりして、試し行動などを頻繁にしてしまう人は、幼児期における不安定な愛着形成と関連があることも明らかになっています。ただし、そのような場合でも、親元を離れ、特定の異性と関わっていく中で、愛着が安定してくることがあることも報告されています。

幼少期の親子関係が、「やりきる力」にも影響する

おそろしいことに、幼少期の親(主に接触時間が長い母親との報告が多い)との愛着関係が与える影響は、その後の人間関係だけではありません。中学生になったときに、「自分の能力を伸ばそうと難しいことに挑戦・努力して目標を達成することや、何か新しいことを習得するようなチャレンジ力にも大きな影響を及ぼします。

不安なときや困ったときには助けてくれる、そんな親への安心感・信頼感があって初めて子どもは新しいことにチャレンジできるのです。私の研究からも、目標に向かって努力をする学生は、頑張るほどに不安が高くなる傾向が示されており、頑張り続けるためには安全地帯があることが重要になってくるのでしょう。

さらに、親への安心感や信頼感が低い子は、不登校になる傾向が高く、学校生活における規則やルールを守ることができないなどの問題行動が多いことや10代での妊娠、薬物使用などが多いことも明らかになっています。また、自己制御力が弱く青年期に暴力的になる(いじめ加害者になる)ということも報告されています。

幼少期の愛着形成ができないことで起きること