ベッドが高齢者で埋まっている
高齢者が救急医療を受診する際の「手段」とともに、救急医療から入院した場合、退院するまでの「出口」問題も整備されていない。
身内で一人暮らしの高齢者がいて、何らかの原因で入院する状態になり、病院から「そろそろ退院してほしい」と言われて困った、というケースを聞かないだろうか。これから大きな問題となりうるのは、高齢者がベッドを占拠してしまうために、病院側に重症の救急患者を受け入れる余地がなくなってしまうことだ。
人口の多い地域、とくに関東圏内では、ベッド数問題に悩まされている。関東では人口十万人あたりの病床数が全国平均の千二百二十九床よりも少なく、神奈川で八百八床、東京で九百四十二床、千葉で九百四十四床、埼玉で八百五十二床となっている(厚生労働省「医療施設調査」二〇一六年)。全国で最もベッドが少ない神奈川県の保健医療計画によると、二〇二五年には急激な高齢化によって、必要病床数が約一万一千床不足すると推計され、「必要病床数」と「既存病床数」の乖離が大きい横浜や川崎北部、横須賀などから病床の見直し、つまりは増床を含めて検討している。
「ベッドが満床の時は、救急患者を受け入れられません」
熊本赤十字病院救命救急センター長の奥本医師が言う。病院が位置する熊本市の人口はおよそ七十万人、市内に救命救急センターは同院を含めて三つある。
「時には熊本市外からも患者が搬送されますから、三病院ともにべらぼうに患者さんが多いです。当院でも救急搬送の要請には一〇〇%応えたいけれども、重症患者の場合、ベッドに空きがなくて応じられないということが少なくありません」
この地域では、三つの救命救急センターのいずれかが患者を受け、それ以上はたらいまわしをさせないという暗黙のルールがあるという。
転院を拒む、“大病院志向”の患者
「救急隊から「あそこ(三つのうちの一つ)に依頼しましたがダメでした」と言われたら、こちらがとるしかないという気持ちでやっています。逆のパターンもあるでしょう。当院で断られたと聞いたら、残り二つで受けてくれます。ただ、インフルエンザが流行する冬場は苦労するんです。三つの救命救急センターがどこもベッドがいっぱいで……」
しかも大病院志向の患者は、二次病院へ転院の話を出されると「格下げ」と感じるようで、なかには「退院までここにいたい」とごねる患者が少なくない。
「一病院で完結するということよりも、「地域のベッド」だから、次に移るという理解を患者さんにしてもらえたら……」
病院によっては、救急専用のベッドを備えていないところもある。たとえば、広島市立市民病院では七百四十三のベッドはすべて各科に振り分けられている。やはり高齢者が多く、院内のベッドは常に満床状態だ。救急科は初療に特化しているため、入院が必要な場合は各科に問い合わせることになるが、調整が難しいことが多いという。