日本では女性同士がバラバラなのが問題
――日本では女性が連帯して自分たちの社会的地位を上げようという動きが起こりにくいですね。
日本は「私は(ジェンダーの)ハラスメントを乗り越えてきたから、あなたもできるのよ」という個人的なフェミニズムが多い気がします。それはイギリスの日系企業に勤める人も同じ。なかなか「♯MeToo」と連帯できずに、個人的な問題で終わってしまうので、女性を生きづらくしている障害をみんなでなくしていこうということにならない。そんなふうに個人個人でバラけている時点で女性たちは負けてしまっている、そう言えるかもしれません。
興味深い話があって、韓国のチョ・ナムジュさんが書いた『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)という本がヒットしていますが、韓国では女性たちがその内容に共感し社会に対して怒ったそうなんです。でも、日本では読んだ人がみんな怒る前に悲しくて泣いてしまったと。それだとシンパシーで終わってしまって、エンパシーでつながって乗り越えていく感じにならないですよね。自分の身に引きつけて泣いて、次に何をするか、が大事なんだと思います。
女性のためのクールな労働運動を
非正規雇用も圧倒的に女性が多いわけですし、子育ての負担も相変わらず大きい。今こそ女性の側からの労働運動が盛り上がるといいですよね。みんなそれぞれの立場は違うけれど、「とりあえず女性が生きやすくしようよ」という点で連帯できると思います。
ただ、どうしても労働運動ってアンクールなイメージがあるのかも。私の若い頃を思い出しても労働組合は「ダサい」とか「暗い」と思われがちだったので、もっとクールで明るいイメージにしたいですね。スマートで知的な運動として……。
職場でヒール付きのパンプスを強要されることに反抗する「#KuToo(クーツー)」運動が起きていますが、それも労働に関わる問題ですし、良い方向に発展していくと大きな可能性を含んでいると思います。上の立場にいる女性も「私もパンプスを履いてきたんだから、我慢しなさい」と言うのではなく「そうよね。足が痛くなるからやめたほうがいいわよね」と懐の深い対応をしてほしい。そういうシスターフッドとも呼べるような女性の連帯が、もっとあってもいいと思います。
――本の結びで、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」と言っていた息子さんが「ちょっとグリーン」だと訂正するくだりが印象的でした。ブルーは憂鬱や不安、グリーンは未熟や経験不足を表すそうですが、例えるなら、みかこさんから見て日本社会は何色に見えますか?
ふだんはイギリスからネットを通し仕事関係の人とやり取りをしているだけなので、日本の全体像が見えないけれど、こうして帰ってきて取材を受けると、みなさんそれぞれに感じていることが違うし、ひとつではなく、いろんな色が見えてきます。けれどみなさん、このままではいけないんじゃないかと思っているのは共通していますね。おそらく、多くの人が今後の社会の方向を模索しているのだと思います。
そもそもこの本も、うちの息子とか学校のことを知ってもらいたくて書いたのではなく、今「なんとかしなきゃ」と思っている日本の人が読んでくださったら、なんらかのヒントになるのではと思って書いたわけです。本のカバーの黄色には楽天的という意味があるらしいので、少しでも社会を明るく照らす本になればいいと思います。
1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、96年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。