「差別=悪人」では思考停止で終わる

――ポリティカル・コレクトネスを考えると人種差別発言は許されないわけですが、発言した人を責めるだけでは解決しないということですか?

「差別しているから、あいつは悪人」と、そこで終わらせたら思考停止になってしまいます。イギリスでもEU離脱についての論争で移民排除などの発言が出てきていますが、その背景を注意深くみていくと原因になっている環境が見えてきます。

緊縮財政が続いた結果、仕事がある労働者階級も「明日はどうなるかわからないぞ」という不安を抱えている。そんなとき、「雇用が安定していた昔はどうだったのか」と思い返して、「移民とかこんなにたくさんいなかったよね」と違う方向に考え、またそういうムードを利用して煽る政治勢力が出てきてしまったりする。だから、本来は政府が財政出動して、昔のような安定した雇用形態にすれば、彼らの不満は薄まるはず。排外的なムードが出てくるギスギスした世の中になっているのは道徳的に退廃しているわけではなく、なにかそうさせている環境があるんだと私は思います。

――日本社会でも不安感や行き詰まった感じは強いように見えますか?

日本は国の借金が1100兆円と言われ、国民一人当たりにすると借金いくらと、教わるじゃないですか。それは国民の借金ではなく政府の借金なのに。「だから、年金は払えないよ」「消費税を上げるよ」と理由に使われている感じがします。それゆえに国民はものすごく押さえつけられた感じがして、日本全体が息苦しくなっているのではないでしょうか。「なんとか借金を返しておかないと」という焦りがあって、デフレ経済が続くと同時に人の心も縮んできている感じがします。なんだか、みんなカリカリしていますよね。

まともな労働運動は女性から

――そういった閉塞感の強い状態を改善するには、どうすればよいのでしょうか?

例えば会社でみんなが残業しなければならないというつらい状態だとして、それはなぜか? ということをよく考えてみてほしいですね。同僚など、自分と同じ地平の人とばかりバチバチやってしまいがちですが、本当に良くないのは雇用主など、労働の仕組みを作っている人。そこに目が向かず、例えば時短勤務の人に矛先が向かってしまう。本来はそうじゃないですよね。

日本の場合、これまでちゃんとした労働運動がなかったというのがよくないと思います。でも今後、日本でまともな労働運動が生まれるとしたら、女性からだと思う、と言いたくなるぐらい女性は大きな役割を果たせると思います。日本で一番、今の状況に怒っているのは女性ですしとても優秀な人が多いですよね。

私と付き合いのある女性編集者さんたちも、仕事と家事、育児の負担が大きくて本当に大変そう。「(日本社会に向けて)もっと過激なものを書いてください」とリクエストしてくれるのは、女性のほうです(笑)。