「精子がフレッシュだから大丈夫」は大間違い

なお、ここまでの話を聞いて、「統計的結果はそうかもしれない。しかし、生物学的に考えれば、男性よりも女性のほうが生殖機能と年齢の関係性が強いのではないか」と疑問に思う人もいるでしょう。私が講演会でこのデータを示して話をするときにも、「(胎児の頃から卵巣に卵子を持っていて)日々老化していく女性の卵子とは違い、男性の精子は毎日新しくつくられてフレッシュなのだから、“高齢パパ”だって支障はないはずだ。それにもかかわらず、統計的には男性のほうが高齢な結婚ほど少子化になるというのはどうしてなのか」との質問をよくいただきます。

疑問に答えるために、次のデータを示したいと思います。

【図表3】は、縦軸が47都道府県の女性の平均初婚年齢、横軸が同じく男性の平均初婚年齢となっています。相関分析をした結果、両者には非常に強いプラスの関係性(「0.89」という数値、ほぼ完全一致)があることがわかりました。

すなわち、男性も女性も自分の年齢が上がれば上がるだけ、結婚相手の年齢も同じ強さで上昇することが示されています。グラフからはほぼ2歳差で両者が強く連動していることがわかります。

この0.89という強い相関は、若い女性に選ばれる相手となるためには、「自分が若いこと」が何よりの条件だ(男女逆も同じです)ということを示しています。

高齢男性は若い女性と結婚しにくいという事実

くりかえしになりますが、このような男女の平均初婚年齢の関係性の強力さを、生物学的な要因(精子がどうのこうの)だけで説明することは適当ではありません。社会的・文化的な要因、世間でいわれる「年齢から来る価値観や人生経験」「思春期の時代感の共有」「トレンドの共有」がパートナーとのマッチングに大きく影響しているのかもしれません。

理屈はどうであれ、若い男性はその「若さゆえ」に若い女性と結婚しやすく、高齢男性は「高齢ゆえ」に若い女性と結婚しにくいという事実が、統計結果からはっきり示されています。それくらい強く両者の年齢が連動しているのです。若い男性の結婚相手は若い妻となることが主流(発生確率が高い)であり、それにともなって出生率が高くなります。高齢男性は高齢妻とのカップリングが多数派であり、出生率も低くなります。

これは不妊治療の現場でもよくあることですが、「ではどちらの年齢が原因か」と、さして年齢の変わらない男女の間で意味不明な覇権争いを行ない、性的プライドを示すことが統計的には意味がないことを理解してほしいと思います。夫婦ともに若ければ、体の状態もともに良く、性生活への意欲や機能(これを無視し、精子年齢だけで受胎を語ろうとする議論には無理がありますが、実に多い言い分となっていることが残念です)も高めになりやすいため、子どもが生まれやすくなります。夫婦とも高齢であれば、体のコンディションについても若い頃に比べてともに衰えが生じ、性生活への意欲や機能も低くなりがちなことから、受精確率も低くなるのです。難しい学術論文の羅列は省きますが、WHOの発表でも、不妊の原因は男性原因/女性原因ともに5割であることを指摘しておきたいと思います。